新国立競技場の建設費が高騰するなど、2020年開催の東京五輪ははなから迷走しているが、それはますます深刻化している。
大会の運営を支える無償ボランティアの応募はかんばしくなく、金属回収でメダルをつくるプロジェクトでも「銀」が集まっていない。唐突にサマータイム導入を打ち出しても、IT業界を中心に強い反発が出ている。とにかく、五輪に向けた取り組みはすべて裏目に出ている状態なのだ。
また、大会期間中は交通渋滞が深刻化するとのシミュレーションもなされており、東京都オリンピック・パラリンピック準備局担当者が、「大会期間中は(交通渋滞が発生するから)ネット通販を控えて」と呼びけるなど、五輪が日常生活をも脅かす危険性が高まっている。
負の側面ばかりがクローズアップされるなか、東京五輪推進側は高い経済効果を喧伝して、それらマイナス面を打ち消すことに躍起になっている。オリンピックやサッカーW杯のようなビッグイベントは、金が動く興行ビジネスの代表格。とはいえ、東京五輪ではそうした経済効果にも疑問が出始めている。
そんななか、安倍政権が一縷の望みを託すのは、訪日外国人観光客による経済効果。いわゆる、インバウンドだ。今般、円安やビザの緩和などを追い風に、訪日外国人観光客数は急増中だが、政府は東京五輪でこのインバウンドをさらに増やそうと躍起になっている。
五輪でソロバンを弾くのは、主に観光業界や東京の飲食店・小売店・宿泊事業者などだ。実は1964年の東京五輪では、大会期間中に10万人の訪日外国人観光客を見込んでいた。しかし、実際は約4万1000人しか来日しなかったという苦い過去がある。おまけに、この数字には乗り継ぎのために日本に立ち寄った外国人も含まれており、実質的には4万人に届かなかったといわれている。
こうなってくると、五輪で懐が潤うのはスタジアムや道路、ホテルなどを手掛ける建設業界ぐらいしか見当たらない。しかし、業界関係者は言う。
「先の東京五輪で新設されたこともあり、首都高は供用開始から50年以上が経過しています。また、一般道も更新時期を迎えています。五輪を口実にしなくても、更新をしなければなりません。つまり、五輪があってもなくても建設業界の需要は変わらないのです。むしろ、五輪で建設資材や人件費が高騰しているので、建設業界は費用が膨らみ黒字が圧縮されています。建設業界にとって、五輪はマイナス面もあるのです」
経済効果はなく、逆に経済損失?
東京で更新時期にさしかかっているのは、道路インフラばかりではない。上下水道も同様だ。東京の上下水道は1950年代後半から60年代後半にかけて整備された。上下水道は道路と同様に供用開始から50年以上が経過しており、更新時期にさしかかっている。
特に、下水道インフラは放置できない事情がある。処理場などは少しぐらい老朽化していても大きな問題にならないが、導管は腐食が少しでも進むと、それは道路の陥没を引き起こす。
「少しぐらいの老朽化ならといって補修を後回しにすると、結局は高い代償を払うことになる」(業界関係者)
実際、五輪開催による経済効果はなく、逆に経済損失は1兆円から2兆円という試算も出始めた。この数字はまだ概算であり、五輪が近づけば近づくほど損失額は膨れ上がる可能性が高い。
五輪開催が決まった頃、景気が上向くと喧伝されていた。しかし、開催が迫るなか、あらゆる方面で五輪は“お荷物“になってしまった。口の悪い関係者からは「五輪は、災害」とまで飛び出した。そこまで厳しい言葉ではなくても、観光業界や建設業界といった五輪で潤うと思われていた業界から、「これは、誰得のイベントなのだ?」という疑問の声が強まっている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)