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『はだしのゲン』閲覧制限騒動“議論”を整理〜名作?思想的偏り?書籍は異例の売れ行き

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『はだしのゲン 1』(中央公論新社/中沢啓治)
 島根県松江市立の小中学校の図書館で漫画はだしのゲン』に閲覧制限がかかっていた問題で、8月26日に同市教育委員会が各校への制限指示を撤回。歴史認識、表現の自由などのテーマで物議をかもしたこの騒動は一区切りとなったが、いまだに議論は収まっていないようだ。

 27日付産経新聞記事に、閲覧制限の賛成派、反対派の論点がわかりやすくまとめられている。閲覧規制に賛成する立場としてコメントを寄せたのは、政治学者の岩田温・秀明大学専任講師と、被爆者や被爆2世らでつくる「平和と安全を求める被爆者たちの会」(広島市)の池中美平副代表だ。

 岩田氏は『はだしのゲン』について「特定の思想傾向が強い漫画で、歴史学的に間違いがある」と指摘。市教委が過激で不適切として閲覧制限を決めた、旧日本軍の兵士が首を刀で切り落とし、女性に乱暴して惨殺するなどの描写が「まるで軍全体の方針であったかのように描かれている」として、「児童生徒に積極的に読ませる書物なのか」と疑問を呈した。また池中氏は、「原爆の悲惨さを強調するのはいい」とした上で、「作品は非道な原爆投下を日本人の責任にする偏った思想の宣伝道具だ。学校図書とするのは問題だ」と断じている。

 一方、閲覧制限はすべきでないとの立場として取り上げられたのは、東京工芸大学芸術学部マンガ学科の細萱敦教授と、社団法人・日本図書館協会「図書館の自由委員会」の西河内靖泰委員長の意見だ。

 細萱氏は同作について「忘れてはならない歴史を扱った名作で、小説などよりも戦争や原爆投下への理解を深める入り口になる」と指摘。西河内氏は「知る自由を保障することが図書館の役割。撤回は、その原則に立ち返った賢明な判断だ」と、閲覧制限の撤回を評価した。

●問われる市教委の独立性と姿勢

 さらに別な視点として、メディアの報道、松江市教委の姿勢について賛否の議論もある。

 27日には、日本維新の会の共同代表で大阪市長の橋下徹氏が、社説で「閲覧制限の撤回」を求めた朝日新聞と毎日新聞を名指しし、「あれだけメディアが騒いで、教委が決定した事項をひっくり返したというのは、教委の独立性を完全に脅かし、教委の独立性はもう要らないと言ったに等しい」(時事通信)と指摘。

 一方、民事訴訟法などを専門にする町村泰貴北海道大学大学院教授は自身のブログで、そもそも閲覧制限問題のきっかけになった“陳情”の内容に疑問を投げかけながら、市教委に対し「最後の世間の反応に再びフラフラするところまで含めて、信念みたいなものが全く感じられない」と語っている。

『はだしのゲン』をめぐる議論はネット上でも大きな話題になっているが、「戦争の悲惨さを伝える名作」という評価を始め、「過激すぎてトラウマになる」「教材というよりギャグ漫画」など、受け手によりさまざまな捉えられ方をしており、「小学生に読ませるべきかどうか」については議論が分かれているようだ。

 J-CASTニュースが23日に伝えたところによると、『はだしのゲン』全10巻を刊行している汐文社はこの7〜8月の2カ月弱で、例年の同時期の約3倍にあたる各巻約7000冊を出荷。中央公論新社の文庫版全7巻は、例年の2.5倍程度出ているという。これまでも思想、教育、表現の自由など、多くのテーマのなかで議論されてきた作品であるだけに、これを機会に読んでみよう、読み直してみようと考える人が多い様子。

 義務教育時代以降読んでいないという人は、再び手に取り、自分が受けた影響や、子どもたちに読ませるに相応しい内容かなど、あらためて考えてみるのもいいかもしれない。
(文=blueprint)