「税理士資格は“足の裏にくっついたご飯粒”だ」
その心は? と問うと、「取らないと食べられないけど、取っても食べられません」という。そんな謎かけを披露するほどに、税理士は今、苦境に立たされているらしい。
言うまでもなく税理士は人気資格だ。独立開業しやすい上、一科目ずつ“取りだめ”できることから、社会人でも目指しやすい。
そのためか、税理士登録者はここ数年、数百人ずつ増え、その総数は7万4000人に及ぶ。
税理士の仕事は、顧客である中小企業や個人事業主の記帳(帳簿作成)代行、税務処理などを行う顧問業務、それに決算時の決算書作成などだ。一昔前までは、毎月の一社当たりの顧問料は4~5万円が相場とされ、客が10件あれば十分食える仕事だといわれてきた。
ところが、そんな「古き良き時代」は、とうに過ぎ去った。『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)を2月15日に上梓した佐藤留美氏によると、「会社の新規開業数の低下、インターネットによる顧問料の透明化、安価な全自動会計ソフトの進化などによって税理士間での過当競争が激しさを増し、ダンピング合戦が始まっている」という。
●新規参入の困難な税理士業界
特に苦戦を強いられているのが、経験の少ない若手税理士たちだ。
「中小企業の社長は、いまだに税理士を替えると税務署から調査が入ると信じている人が多く、すでに税理士がいる会社に若手税理士が『自分を使ってほしい』と営業するのは難しい。しかも、いい顧問料を払ってくれる『太い客』は、税務署上がりのシニア税理士がつかんで離さないのです」(佐藤氏)
そうはいっても、自分で顧客を新規開拓するのは容易ではない。税務顧問を雇うということは自分の財布を預けるに等しく、新規開業組の社長に「税務顧問にしてください」と営業しても、税理士は知り合いのツテを使って頼むのが常道なので、信用を得るのはとても難しい。うまく顧問にしてもらえても、相手も事業がまだ軌道に乗っていないから、買い叩かれることが多い。
それでも、なんとかして良い顧客をつかまえたい。そこで、多くの若手税理士は仕事欲しさにシニア税理士の太鼓持ちになる。
「優良顧客をたくさん抱えたシニア税理士のおこぼれにあずかるためなら、『地元の税理士会の飲み会の場所手配や郵便物の発送、支部の雑用などはもちろん、高齢者が苦手とするテレビやネットの接続、ソフトの使い方の指導、はたまた、シニア税理士が出入りするロータリークラブを訪問してのご機嫌伺い、野球チームに入って一緒にプレーするなど、やれることはなんでもやるしかない』と語る若手税理士は複数いました」
そんなドブさらい的な努力の結果、後継者がいないシニア税理士の顧客をそっくり引き継いだというラッキーマンも存在するそうだ。
●定年がないため、超高齢社会に
ただし、根の深い問題があり、それは税理士業界は60代以上が半数以上という超高齢社会で、シニア組がなかなか引退しないということだ。日本税理士会連合会の調査によると、2013年1月1日時点で、30代の税理士は9.46%しかいないのに対し、60代の税理士は27.76%、70代は13.3%、80代は11.14%もいる。そして驚くべきことに、90代税理士が0.78%、100歳以上の税理士も0.01%と、超高齢者がしっかり統計に載っているのだ。
「税理士に定年なし。それは魅力でもありますが、若手からしたら、いつまでもいい仕事が回ってこないことの裏返しでもあります」(佐藤氏)
いったい、いくつまでシニア税理士の太鼓持ちをさせられるのか――そんな若手税理士の悲鳴が聞こえてきそうだ。
ちなみに、『資格を取ると~』には、税理士だけではなく弁護士、公認会計士、社会保険労務士など人気資格者の厳しい現状が生々しく描かれている。
「一流の資格を取りさえすれば一生安泰」などと考え、資格取得して脱サラしようと安易に思っている人は、ぜひ一読してみるといいだろう。
(文=編集部)
『資格を取ると貧乏になります』 過当競争とダンピングで「資格貧乏」続出! 弁護士や公認会計士など、一流の資格を持っていたら食いっぱぐれないなんて大間違い! 資格ビジネスの知られざる裏事情を解説し、「資格の賢い活かし方」も伝授。