さらに、消費者庁は新制度では健康食品やサプリについて、何が身体に良いのか「関与成分」を示すようにも求めている。この「関与成分」とは、薬の有効成分と同じ考えであり、薬並みの基準を求めているのである。これも考えようによっては消費者保護の大義名分が立つ。しかし、漢方薬の中には「関与成分」が明らかになっていないものもあり、「伝統」がエビデンスとなっている。「塩分を多く摂る地域は高血圧やがんなどの成人病にかかりやすい」といった伝統的食生活などを分析してデータを取る疫学的研究でも、関与成分が明らかになっていないケースは多い。
結局、優良なサプリや健康食品が普及するとトクホ市場が侵され、自助努力によって健康な人が増えると製薬市場にも影響する。ひいては厚労省、トクホ業界、製薬業界、医師会といった既得権益者の利権が崩れることにもつながりかねないのである。実際にトクホ市場は商品のバラエティーさに欠けることなどから07年度の6798億円をピークに市場は伸び悩み、13年度は6275億円だった。これに対して、サプリや健康食品はトクホの2倍以上の1兆4000億円にまで拡大。メーカーが自助努力でさまざまな商品を開発し、それを消費者が受け入れているからだ。既得権益者にすれば、規制緩和で新制度が発足すれば、トクホがさらに水をあけられると考えても不思議ではない。
日本では健康食品やサプリを愛用している人は多いとはいえ、いかがわしい業者が存在することも事実である。また、一流メーカーである花王が開発・発売した食用油として初のトクホ「エコナ」でさえも、発がん性物質が入っていたことが発覚し、トクホの信用を傷つけた。また、関西テレビの番組『発掘!あるある大事典』では、ねつ造されたデータで納豆にダイエット効果があることを示した問題も起こった。
こうした過去の事例から、健康食品やサプリは本当に身体に良いのか、逆に身体に害をもたらす物質が入っていないかと、消費者が疑念を抱くのも当然といえよう。その一方で、科学や技術は進化し、植物が過酷な環境下でも生きながらえるための物質「フィトケミカル」を利用したサプリなども誕生している。製造や安全管理の技術も進化している。また、埼玉県坂戸市では行政が「葉酸」を摂取する食事指導を行った結果、医療介護費を06年度と07年度で計22億円削減した実例もあり、科学的根拠のある機能性食品の摂取は一定の効果があることも示されている。規制緩和をして新しい製品を世に送り出しやすくすることが、真に消費者のためといえるのではないか。
●規制緩和と消費者保護のシステムの両立
消費者庁による規制改革潰しも問題ではあるが、業界は規制改革を求めると同時に、消費者被害が起こらないための制度づくりや商品の安全性が担保される認証システムの整備、悪徳業者が出た際の対応なども準備しておくべきではないか。また、サプリや健康食品は長い視点で見て健康を維持増進させるものであるのに対して、薬は症状を緩和させるためのものであるといった、サプリ・健康食品と薬の違いを消費者に教育していくことも求められる。規制緩和に伴う企業の自己責任の明確化も重要であろう。
米国では規制緩和によって企業の自主責任を謳いながらも、サプリや健康食品の新規原料の採用については発売75日前までに食品医薬品局(FDA)に届ける義務があるが、日本ではそのような制度はまだない。また、米国では第三者認証である「GMP(グッド・マニファクチャリング・プラクティス)」認証工場での製造義務も課せられているが、日本では同様の義務はない。さらに、米国では監督官庁のガイドラインは815ページにも及ぶが、日本はわずか5ページだ。
米国ではサプリや健康食品の市販後、重篤な副作用があった場合には報告を義務付け、違反すると厳しい罰則もあり、業界としてもFDAへの取り締まりに積極的に協力している。業界団体がサプリの正しい情報が得られるスマートフォン用アプリなども開発している。日本もこうした点も見習うべきである。
規制緩和と同時にこうした消費者保護のシステムも確立していけば、結局は優良製品を提供する企業しか生き残れなくなるはずであり、それこそが真の消費者保護につながる。今こそ規制緩和による市場の力を通じて、財政問題や健康問題を一石二鳥で解決していく発想が、国や企業、消費者に求められているのではないか。
(文=井上久男/ジャーナリスト)