ソニーは今、劇的に変わろうとしている。ただ、「夢」と「感動」のソニーではない。「普通の会社」として、再生に向けた第一歩を踏み出そうとしている。その主役は、社長の平井一夫氏というより、改革派のソニー取締役 代表執行役 EVP CFO(最高財務責任者)吉田憲一郎氏である。その改革手法は、財務畑出身の吉田氏らしく財務戦略を基本としている。
平井氏は2月18日、本社で開かれた経営方針説明会で、2015年度からの「第二次中期計画」を発表し、「17年度にROE10%以上、連結営業利益5000億円以上」の目標を掲げた。収益力すなわち「稼ぐ力」は、経営の最重要指標であり、企業の活力そのものといっていい。逆にいえば、あらためて「収益重視」を掲げた今のソニーは、それほど「稼ぐ力」が落ちているということである。
振り返ってみれば、3年前の12年4月12日に発表された「第一次中期計画」では、「グループ売上高8兆5000億円、営業利益率5%以上、ROE10%」が掲げられた。ところが、14年5月14日に発表された14年3月期の連結業績は、売上高が7兆7673億円、営業利益が265億円、最終損益が1284億円の赤字となった。中期計画の最終年となる15年3月期の最終損益は200億円の黒字が見込まれてはいるものの、中期計画の達成は難しい。
つまり、目標の未達により、15年度から成長フェーズへ移行するという思惑は完全に外れた。15年度以降も構造改革に取り組まざるを得ないわけで、03年の「ソニーショック」以来、10年を超えて構造改革を続ける結果になる。構造改革は、続けてせいぜい3年といわれるが、ソニーは10年以上続けているのだから、もはや尋常ではない。
●資本効率を重視する経営へ転換
私が「第二次中期計画」で注目したのは、大きく2つだ。ひとつは、事業を3つに分類し、投資の選択と集中を明確に示したことである。これまでも売り上げ至上主義、シェアを追うのはやめると平井氏はさんざん表明してきたが、その取り組みは中途半端だった。今回やっと方向転換を全面的かつ具体的に打ち出した。これは、多分に財務担当の吉田氏の経営判断とみていい。
まず、3つの分類の1つ目は、デバイス、ゲーム・ネットワーク、映画、音楽などの「成長牽引領域」だ。例えば、デバイスのCMOSイメージセンサーは、増産のための設備投資や技術開発投資などを行い、売り上げ成長と利益拡大を目指す。
2つ目は、デジカメ、放送機器、オーディオ機器関連の「安定収益領域」である。この領域は、着実な利益計上とキャッシュフロー創出を重視した経営を行う。
3つ目は、スマートフォンとテレビの「事業変動リスクコントロール領域」である。ここでは、事業リスクの低減と収益性を最優先した経営を行う。投下資本を抑えるとともに、他社との提携などの選択肢も検討する。