商業地の都内全体の平均値は2.9%。上昇率が大きかった区は住宅地と同様に中央(7.2%)、千代田(5.7%)、港(5.6%)の都心3区だ。企業の業務拡大や好立地への移転などでオフィス需要が高まっているほか、銀座や大手町・丸の内地区などの再開発も好結果をもたらした。
都心では超低金利に加え、20年の東京五輪を控えた大規模再開発や外国人観光客の増加が地価を押し上げた。1990年代のバブル崩壊後、07年頃に発生した外資マネーによるミニバブルは、08年のリーマン・ショックを契機にしぼみ、再び地価は下落したという苦い過去がある。
安倍晋三政権の下で日本銀行が異次元金融緩和に踏み切ったことから、国内外の投資マネーが都心部の土地に集中し、地価を押し上げた。いまや都心の地価は、バブル期だった80年代後半の水準に近づき、バブル前夜の様相を呈している。ひときわ目立っているのが、円安を背景とする海外マネーによる都心の買い占めだ。一部の不動産には“爆買い”傾向が見られる。
目黒雅叙園も中国政府の手に
買収額1800億円――。リーマン・ショック後に日本最大級の取引となったのが、東京・千代田、JR東京駅前の超1等地にある大型ビル「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」だ。シンガポール政府投資公社(GIC)が昨年10月に買収した。GICが取得したのは賃貸可能な床面積約3万9000平方メートルのスペースで、8階から31階のオフィスが含まれるが、同じ建物に入居するフォーシーズンズホテルなどは対象外。同ビルは、アジアの不動産会社PAGグループのセキュアード・キャピタル・インベストメント・マネジメントが09年12月に1400億円で取得した。地価上昇の追い風を受け、セキュアードはGICに1800億円で売却し、400億円の利益を得た。
GICは81年にシンガポール政府によって外貨準備を運用するために設立された投資ファンド。日本への投資は、96年の汐留シティセンターを皮切りに、07年に福岡市の商業施設ホークスタウン、08年にはウェスティンホテル東京を買収している。
数年前から都心に残る数少ない大型物件として注目されてきたのが、東京・目黒の結婚式場とオフィスビルの複合施設「目黒雅叙園」だ。森トラストが昨年8月、1300億円もの巨額資金を投じて米投資ファンドのローンスターから取得した。