ところが、そのわずか5カ月後の今年1月末、米不動産投資顧問会社ラサール インベストメント マネージメントが組成した特別目的会社(SPC)に1400億円で転売した。森トラストは100億円の利益を手にした。
雅叙園の新しいオーナーとして名前が出たのはラサールだが、雅叙園を取得したSPCに対する同社の出資比率は2.5%にすぎない。残り97.5%は中国政府系ファンドのチャイナ・インベストメント・コーポレーション(中国投資有限責任公司=CIC)が出資している。東京都指定有形文化財「百段階段」も含まれる国内有数の結婚式場で知られる目黒雅叙園は、中国政府の手に落ちた。
CICは07年、中国政府がシンガポールのGICを模倣して、外貨準備を運用するために設立した投資ファンド。これまで英国の民間水道会社テムズ・ウォーター、英ロンドンの新金融街カナリーワーフ、米ニューヨークに拠点を置く投資銀行モルガン・スタンレーなどにも出資してきた。CICは投資リターンだけを目的としていない。中国政府が国家投資戦略の柱と位置付けている国家ファンドだ。中国政府の方針に基づき、新興国市場への投資を増やそうとしている。
チャイナマネーの“爆買い”は、繁華街のど真ん中の物件にも及んだ。紅白の衣装を着た「くいだおれ太郎」が客を出迎える大阪・道頓堀の商業ビル「中座くいだおれビル」。「ナニワの象徴」といえる建物を2月、投資ファンド、ダイナスティ・ホールディング・インターナショナル・リミテッドが100億円で買収した。くいだおれビルは、これまで東京建物不動産販売と英グロブナー・リミテッドの2社によるSPCが持っていた。地価上昇で売り時と判断したようだ。
ダイナスティは12年に設立されたばかりの新興ファンド。香港に拠点を置き、台湾の投資家マネーを資金源にしており、13年3月に日本拠点を開設した。台湾や中国本土の観光客に人気がある大阪や福岡、札幌を中心に不動産を買収する計画があるという。
東京五輪の頃にはバブルがはじけるのか
大型物件を買い漁っているのはファンドだけではない。20年の東京五輪開催による資産価値上昇への期待感から、香港や台湾、シンガポールを中心とした個人投資家が、都心の高級マンションに飛びついている。彼らが公示地価上昇に一役買ったといっていい。
「これから都心の不動産市場は、転売が多発して地価が上昇していくバブル期に突入するが、東京五輪が開幕する頃にはそのバブルもはじける」(業界筋)との見方も強い。国内外の投資家が高値で売り抜けようと争うマネーゲームによる地価上昇は、大きな危うさをはらんでいるといえる。
(文=編集部)