これまで政府は2020年までに基礎的財政収支( プライマリーバランス、PB:年収に相当する税収から利払い費以外の政府支出を除いたもの)を黒字化する方針を掲げていたが、これに代えて債務残高対GDP比を目標にすることを検討している。これに対して一部からは、「20年のPB黒字化達成が困難になったため、密かにあいまいな目標にすり替えようとしている」との批判も出ている。
結論からいうと、こうした些細な政策の違いにマスコミは騙される。単に記者が勉強不足なだけであるが、つまらない違いにマスコミの目が向いて喜ぶのは、20年のPB黒字化達成が容易であることが公になると増税しにくくなる財務省である。こうした批判は、マスコミの不勉強と、財政再建が容易に達成できてしまっては困る財務省との「合作」であろう。
まず、財政再建目標をPBの均衡から債務残高対GDP比へ変更することが問題であると報道されているが、実は両者はほとんど同じ意味である。それは次の式からわかる。
(債務残高/名目GDP)の変化分
=▲PB/名目GDP-(成長率-金利)×(前の期の債務残高/名目GDP)…(※)
この式は誰でも導き出せるのだが、不思議と経済学の教科書には載っていない。財政健全化のためには左辺の債務残高対GDP比を減らせばいいのだが、左辺がどういう要素で成り立っているのかを示したのが右辺だ。右辺は左辺をいわば要因分解したような結果であり、誰が検証しても同じ結果になる。この式から、長い目で見れば成長率と金利はほぼ同じなので、債務残高対GDPの変化分は「▲PB対GDP」となるわけだ。
ちなみに、PB対GDP比と債務残高対GDP比の実際の数字を見てみよう。
年によってブレはあるものの、長期的には両者の動きはよく似ている。PBの均衡から債務残高対GDP比への変更という目標変更は、とりたてて騒ぎ立てる話ではないのだ。
少なく見積もられた税収
では、なぜこうした「みみっちい話」が出てきたのか。
前出(※)式をみてみよう。長期的には経済成長率と金利はほぼ同じ水準であるので右辺第2項を無視してもいいが、毎年の予算編成ではどのような成長率目標になるかが死活問題になる時もある。そして、予算をぶん取りたい「公共族」はどれだけ予算を獲得できるかに大きな関心がある。