現在、日本銀行が量的緩和をしているので名目金利は抑えられ、当面は成長率>金利になる公算が高い。ということは、債務残高対GDP比が財政再建目標になったほうが、式の右辺第2項が効き、その分、債務残高対GDP比が下がるので、予算ぶん取りにとっては好都合なのだ。ただし、これはかなり「みみっちい話」である。
むしろ問題は、財政再建目標の変更よりも、中期財政試算の方法にある。財政再建シミュレーションでは歳出の伸びは機械的に置くので、歳入つまり税収の見積もりが重要になってくる。そのカギになるのは、税収の弾性値(名目成長率の伸び率に対する税収の伸び率)と名目経済成長率である。
財務省は常に「財政再建のために増税」というロジックを掲げる。逆にいえば、財政再建ができることが公になると、増税の必要性を訴えることができなくなる。これは、国民にとって好都合であるが、財務省にとっては不都合である。そのため、「財政再建が必要」と主張するために、常に中期試算上の税収を少なく見積もっている。それが、税収の弾性値を低く、名目成長率も低くするという手法だ。
具体的にいえば、税収弾性値は1を少し超えた水準、GDPデフレータ(名目GDPを実質GDPに評価し直すための指数)は1%と設定され、名目成長率も抑えられている。しかし、これまでのデータでは、税収弾性値はもっと大きく、GDPデフレータもインフレ目標2%なら2%になるはずだ。
このような税収弾性値とGDPデフレータをまともにするだけで、20年の財政再建はほとんどできてしまう。中期試算に基づく、筆者の試算を以下に示そう。
「政府は20年のPB黒字化達成が困難になったため、債務残高対GDP比にすり替えようとしている」と批判するマスコミがいたら、単に不勉強で財政省のポチになっているだけなので、注意しよう。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)