「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
自動車好きの読者ならご存じだと思うが、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」は、日本国内で発売された乗用車のなかで、年間を通じて最優秀と評されたものに与えられる賞だ。
その賞をこの3年間で2度も受けているのが、広島に本社を置くマツダだ。2012年度(第33回:12-13年)は「CX-5」、14年度(第35回:14-15年)には「デミオ」で輝いている。
かつては経営危機に陥り、米フォード・モーターの支援を受けて1996年から03年途中まで4代続けてフォード出身の外国人社長を受け入れたマツダだが、近年の活躍は目覚ましい。実は、それを支える一つに「女子力」がある。今回は、マツダで開発を担う女性たちの横顔を少し紹介しよう。
39歳の若さでチーフエンジニアに就任した女性
15年2月1日付の人事が、業界で話題となった。マツダ初の商品本部・女性主査に、当時39歳の竹内都美子氏が就任したのだ。主査とは開発を統括する役職で、他社においてはチーフエンジニアとも呼ばれる。競合メーカーも含めて女性が同職に就くのは珍しく、この若さで就任したのも異例だ。
97年入社の竹内氏は、開発・評価ドライバーの社内資格で、男性でも取得が難しい「特A」のライセンスを持ち、運転技術にも定評がある。
だが、肩書や技量といった先入観で本人に会うと、いい意味で裏切られる。取材でも懇談でも笑顔を絶やさない普通の女性なのだ。現在は次世代マツダ車の開発を統括するが、「実はキティちゃん好き」というギャップも面白い。
「以前は与えられた条件=Givenのもとで理想の車種開発をしていたのが、売り上げ目標や予算など、会社全体の視点でGivenをつくる立場に変わりました。ゼロから物事を考えるのは、違う頭を使うので大変ですが、やりがいもあります」(竹内氏)
竹内氏に続く存在が99年入社で、車両開発本部主幹の福原千絵氏だ。福原氏は自動車の静粛性やエンジンサウンドといった音響開発の専門家で、05年には自動車技術会「浅原賞」も受賞している。今年のゴールデンウィークまでドイツ・フランクフルトに駐在していた。ちなみに、女性エンジニアとして初めてのドイツ駐在員だったという。
福原氏が運転する白の「ロードスター」に同乗して話を聞いた。
「欧州では、競合メーカーを含めて多くの自動車を現地で評価し、現地企業と一緒に仕事をするなかで、欧州と日本の自動車文化の違いを知り、それをどう商品に落とし込むかなどを学びました」(福原氏)
現在、次世代マツダ車の静粛性コンセプト・構造具現化のリーダーを務める福原氏は、フラメンコが得意で海外公演のメンバーとして参加したこともある。フラメンコを始めた理由は、「大学、社会人と男性に囲まれた環境で、せめて外では女性とつながりたいと思い、女性の愛好家が多いフラメンコを選んだ」という。