女性向けではなく、誰もが使いやすい自動車
マツダが積極的に女性活用を考え始めたのは、90年代後半からだ。だが、竹内氏や福原氏の同期に女性エンジニアはいなかったという。2人は、そんななかで道を切り拓いていったのだ。
自動車好きが高じて入社するケースが多い男性エンジニアとは違い、女性エンジニアはカーマニアでもなく、入社してから自動車好きになる人も多い。
そのひとりが伊東景子氏だ。同氏は自動車の走行性能の開発・育成を担当する。社内資格で竹内氏の特Aに次ぐ「A」ライセンスを持ちテストドライバーも務めるが、自動車の運転免許を取得したのは大学院時代の23歳と、決して早くない。入社後に腕を磨き、社内テストコースでは時速200kmの高速走行もする。
「同期の男性は自動車好きばかりで、最初から運転テクニックも高かったため、悔しい思いをしながら練習を重ねてライセンスを取得しました。最初のうちは、スピード走行で泣きそうになったこともあります。横に乗っている教官に『アクセルを踏め!』と言われるのですが、怖くてできませんでした(苦笑)」(伊東氏)
自動車好きでもなかった女性が、技術を高めて走行・環境性能を担当する。現在の伊東氏は1歳7カ月の男児の子育て中で、長年「女性視点タスク活動」にもかかわる。
「女性は男性に比べて恐怖心を抱く傾向にあります。特にバックでの駐車や高速合流などはそうですね。そのようなときに操作しやすいクルマづくりを目指しています」(同)
とはいえ、女性向けの自動車を開発するのではなく、「女性が使いやすいクルマは、男性にも使いやすい」との視点に基づいている。
今回取材した中での最年少は、26歳の芦原友惟奈氏だ。運転免許を18歳で取得し、現在は主にSUV(スポーツ用多目的車)全般を担当してシートの開発業務にかかわる。車種のコンセプトに合わせたシートの性能目標を立て、ドライバーの座り心地や操作性を意識しながら柔らかさ、形状、表皮材を組み合わせて開発している。
「開発にあたっては、上司にも率直に提案をしています。意見がある時は具体例でエビデンス(根拠)を持って言いますが、きちんと耳を傾けてくれる企業風土があります」(芦原氏)
女性目線が生かされたのが「CX-3」や「デミオ」で導入された、振動吸収ウレタンという素材を使ったシートだ。運転者が女性でも男性でも使い勝手がよく、大柄な人が座ると沈むのでシートが大きく使えて、小柄な人では沈みこまずに反発してくれるという。
「将来はもっと全体を見渡せる仕事がしたい」との夢を持ち、竹内氏が憧れの存在だと語る芦原氏のモットーは、「作業服を脱いだら2割増し」だという。仕事中は作業着のため、「アフター6や休日の私服では女性らしいオシャレを楽しんでいます」と笑う。