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舘内端「クルマの危機と未来」

“究極のエコカー” 燃料電池車の化けの皮 ガソリン車より燃費悪く、多くのCO2排出

文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表
“究極のエコカー” 燃料電池車の化けの皮 ガソリン車より燃費悪く、多くのCO2排出の画像1トヨタ自動車の燃料電池車・MIRAI(「Wikipedia」より/Turbo-myu-z)

 2012年の世界の石油消費量は42億2050万トンであった(省エネルギーセンター資料)。一方、運輸部門のエネルギー消費量は石油換算で25億700万トンである。これはほとんど石油と考えられるから、世界の交通は石油の59.4%を使っていることになる。

 運輸部門には、自動車のほかに鉄道、船舶、航空機がある。これらが消費するエネルギーのおよそ90%を自動車が占める。したがって、自動車は世界の石油生産量の53%近く、つまりおよそ半分を燃やしてしまうことになる。自動車の石油依存度はきわめて高い。石油有事となれば、まず自動車交通がダメになるわけだ。そして、20年にはもっと依存度が高まると考えられる。

 12年の世界の自動車保有台数は、およそ11億1500万台だ。これが20年にはおよそ15億台になるといわれており、現在の1.3倍にあたる。もし、石油の生産量が増えず、燃費も改善されないとすると、自動車は世界の石油のおよそ70%を使ってしまうことになるが、石油は自動車以外でも使うので、自動車だけで70%も使うわけにはいかない。自動車以外の分野の代替エネルギー化を進めるか、石油生産を増大させ、自動車の石油依存度を12年レベルにする必要がある。

 そのために必要な増産量は、およそ7億2000万トン。12年の世界の生産量を5年間で17%引き上げなければならない。これはサウジアラビアがあと“1.24国”必要なことを示している。ご存じのように、サウジアラビアは世界最大の石油生産国である。それがあと1国以上必要だということは、きわめて憂慮すべき事態だ。ちなみに、05年から12年までの7年間の石油生産の伸びは6.8%である。

水素自動車は燃費が悪い?

 このように、石油に代わるエネルギーの早急な開発と生産が求められる。そこで水素が注目を集めている。しかし、自動車を水素で走らせれば石油依存度も大幅に低下でき、世界の石油不足も解決できると単純に考えてはいけない。

 4月17日付当サイト記事『“面倒くさい”燃料電池車、「環境にやさしい」はまやかし?燃費もガソリン車以下?』でも説明したように、水素は掘っても出てこない。石油、天然ガス、石炭等を改質するか、水を電気分解して作るしかない。

 石油等の化石燃料から作るには、電力などのエネルギーを使って、水素と結合している炭素を剥がす必要がある。その工程で炭素は酸素と結びついて二酸化炭素(CO2)になる。やはり二酸化炭素は出る。一方、水を電気分解するには電気が必要だ。その電気を火力で発電すれば、やはり二酸化炭素は出てしまう。

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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