とくに目を引くのが、辞任した田中久雄社長、佐々木則夫副会長、西田厚聰相談役の歴代3社長が主導したパソコン事業の利益かさ上げによる不正な会計操作だ。
実は東芝は、不正な会計操作を繰り返していた最中の昨年9月18日、パソコン事業の国内外従業員900人のリストラを発表している。対象従業員の2割に相当し、国内の営業、事務、開発部門を中心に400人を減らすというものだった。当時はアベノミクスによる景気回復の兆しが見え始め、東芝本体も14年3月期決算では営業利益、純利益ともに黒字を達成していた。世の中が上げ潮ムードにある中でのリストラ発表に驚かされたが、好業績の時に不採算部門を立て直す“攻めのリストラ”と一定の評価を得た。
だが、この間もトップ主導による不正な会計操作が続いていたのである。もちろん、リストラされる社員はその事実を知らなかっただろう。そして調査報告書を読むと、このリストラは不正な会計操作を隠蔽するための人員削減だったという疑念が浮上してくる。
バイセル取引の悪用
まずは会計操作の中身を紹介しよう。パソコンの製造・販売は、東芝がパソコン部品を調達して組み立てメーカーに販売した後、パソコンの完成品を再び東芝が買い取って販売するという流れだ。その際、東芝は調達した部品の原価を5倍程度に上乗せした価格で組み立てメーカーに販売する。この時点で会計上の利益が東芝に発生する。
次に組み立てメーカーの完成品が納品された時に、上乗せ部分の価格を転嫁して買い取ることで利益が相殺される仕組みだ。これは「バイセル取引」と呼ばれるもので、調達コストの低減策として他の大手PCメーカーでも実施している方法だという。
だが、東芝はこの仕組みを悪用する。四半期末に生産台数に必要とされる数量を超えたパソコン部品を組み立てメーカーに販売し、残った部品を在庫として保有させることで、見かけ上の当期利益をかさ上げしていた。つまり、調達原価を超える価格の部品押し込み販売による利益のかさ上げ(負債記録の先送り)を継続的に実施していたのである。
ちなみにバイセル取引を導入したのは04年。パソコン事業トップの西田氏の下で事業の立て直しが始まり、田中氏はその調達改革のリーダーを務めていた。押し込み販売による利益のかさ上げが始まったのは、08年の西田社長時代である。