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JTが抱える「時限爆弾」

文=編集部
JTが抱える「時限爆弾」の画像1「Thinkstock」より

 日本たばこ産業(JT)は8月4日、インドネシアのたばこメーカーと流通会社2社を6億7700万ドル(約745億円)で買収すると発表した。有利子負債を含めた取得金額は10億ドル(約1100億円)。

 買収するのは、ジャワ島に9つの製造拠点を持つカリヤディビア・マハディカ(KDM)と、同社製品の販売を担うスーリヤ・ムスティカ・ヌサンタラ(SMNグループ)。KDMは葉たばこに香辛料を混ぜたインドネシア特有のクレテックたばこを生産し、2016年の売上高は約560億円。インドネシア国内でのシェアは2.2%という。

 インドネシアは中国に次ぐ世界第2位のたばこ市場だ。16年の紙巻きたばこの販売本数は約2850億本で、今後も成長が見込める市場といわれている。

 一方で、JTは、フィリピンたばこ大手、マイティー・コーポレーションと製造・流通関連資産の買収に向けて協議を進めていたが、8月22日に正式に発表した。買収額は付加価値税を含めて526億ペソ(約1178億円)だ。マイティーの資産を引き継ぎ、JTはこれまで5%以下だったフィリピンのシェアアップを狙う。

 マイティーはフィリピン市場でシェア23%の大手だが、偽造印紙を使うなどして巨額な脱税をした容疑で当局から訴追されている。これまで複数社がマイティーの買収に名乗り上げていた。

 インドネシア、フィリピンでM&Aを成功させたことにより、手薄だったアジア市場の開拓を急ぐ。

JTは海外大型買収の勝ち組?

 海外たばこ会社の大型買収はJTのお家芸だ。JTはM&A(合併・買収)を「成長の時間を買う」手段と位置づけている。

 1999年、米RJRナビスコの海外たばこ事業を9400億円で買収。2007年には英ギャラハーを2兆2530億円で手に入れた。さらに15年、米レイノルズ・アメリカンの人気ブランドであるナチュラル・アメリカン・スピリット(アメスピ)の米国以外の事業を6000億円で傘下に収めた。

 これら3つの大型買収によりJTは、米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)に迫る世界第3位のたばこメーカーとなった。

 JTの前身は日本専売公社だ。1985年に民営化されたが、現在も財務大臣が33.35%の株式を持つ。

 JTが海外でのM&Aに活路を見いだそうとしたのは、多角化に相次いで失敗したからだ。民営化後、さまざまな新規事業を始めたが、ことごとく失敗した。

 健康志向の高まりやたばこ増税で国内たばこ市場は縮小したため、海外に目を向けた。皮肉なことに、JTにグローバルな事業を任せられる人材がいなかったことが幸いしたといえる。海外事業の経営に日本の本社は口を挟まず、「カネは出すが、口を出さない」の姿勢を貫いた。JT流に言えば、進駐軍にならなかったことが成功した要因だ。

 海外事業を担うJTインターナショナル(JTI)はスイスに本社があり、JTIが世界本社だ。JTIにぶら下がるローカル本社がJTという構図になっている。

 たばこ業界では、世界規模での再編が相次いでいる。BATは今年1月、米2位のレイノルズ・アメリカンを5兆6000億円で買収することで合意した。世界最大手のPMIはマルボロを持つ米首位のアルトリア・グループと、もともとルーツが同じで、最近は再び一緒になる可能性が取り沙汰されている。

 JTは再編に関してBATやPMIに出遅れたため、アジアやアフリカ、南米など新興国市場の開拓に乗り出した。インドネシアやフィリピンでの1000億円規模の買収がその具体的な表れといえる。ブラジルやドミニカ共和国の現地企業を買い取り、エチオピアのナショナル・タバコ・エンタープライズにも40%、510億円出資した。

 小規模なM&Aを積み重ねることで、アフリカ、中東市場の開拓を進める。新興国市場に活路を見いだそうとする作戦だ。

のれん代は1兆6000億円

 JTの17年12月期第2四半期(17年1月~6月)の連結決算(国際財務報告基準=IFRS)は、売上高にあたる売上収益が前年同期比3%減の1兆453億円、本業の儲けを示す営業利益は同9%減の3132億円と減収減益だった。

 海外のたばこ事業が売上収益の59%、営業利益の62%を占めている。海外のたばこ事業に「オンブにダッコ」されているのが実態だ。世界120カ国で事業展開しているが、上位2社は200カ国前後に進出しており、見劣りする。

 アキレス腱は、積み上がったのれん代だ。17年6月末時点ののれん代は1兆6297億円。総資産の35%、自己資本の61%に達する。日本会計基準では、のれん代を20年以内に均等償却することが義務付けられている。IFRSでは、決算期ごとにのれん代を償却しなくてもよい。JTがIFRSに移行した理由がこれだ。

 だが、IFRSは毎期、事業の減損を厳密に査定しなければならない。事業価値が目減りしたと判定されると、一気に減損処理をしなければならなくなる。

 JTは会計コンサルティング会社と助言契約を結び、毎期のれん代の価値を評価する体制を整えた。それでもJTは、いつ破裂するかわからない、のれん代という名の時限爆弾を抱えているといって過言ではない。
(文=編集部)

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