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有馬賢治「日本を読み解くマーケティング・パースペクティブ」

地味なトヨタ「ハイエース」がずっと売れ続けている理由…中古車市場でも高値で取引

解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季
地味なトヨタ「ハイエース」がずっと売れ続けている理由…中古車市場でも高値で取引の画像1トヨタ自動車のハイエース(「Wikipedia」より/天然ガス)

“10年落ち”となっても流通価値を認められやすいなど、中古車市場でも高値で取引されている車種なのが、商用車としてロングセラーを誇るトヨタ自動車ハイエース。同じようなタイプの競合車種が存在するにもかかわらず、なぜデザイン的に大人しいハイエースが長きにわたり圧倒的人気を維持して売れ続けているのか、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏にマーケティングの観点から分析してもらった。

“企業の提案に乗る”か、自己実現を目指すか

「まず、世界的な人気の理由としてあげられているのは、エンジンや基本構造がしっかりつくられていて劣悪な環境にも耐えられる耐久性や、修理がしやすいなど整備性が優れている点です。また、室内空間が広い合理的なデザインで、キャブオーバータイプの構造上、取り回し、見通しがよく運転しやすいという特徴があります。さらに、最近の車種は安全性や快適性が乗用車並みに進歩している点も人気の要因だと思われます。こういった複数の要素が評価されて、結果として国内外でのリセールバリューが高い車種の地位を得ているといえるでしょう」(有馬氏)

 一方、機能や設計といった利便性だけでなく、今の時代に合ったデザインセンスが、ハイエースの人気を支えていると有馬氏。

「企業側が趣向を凝らしていくことで消費者の共感を得る場合もありますが、ネットを通じて多様なデザインに触れやすい時代だけに、かえって過剰な装飾は敬遠されることもあります。つまり、現代は自分で工夫する余地が残されていることに価値が見いだされる時代でもあるのです。自動車の場合、同じトヨタのアルファードやヴェルファイアは、企業側の提案をそのまま受け入れる車種ですが、ハイエースは外装・内装ともにオーソドックスなデザインなので自分らしさを付け加えやすいベース車両型の車種だと捉えることができます」(同)

 それを商機と見ているかはわからないが、自動車市場周辺を見ても、ハイエース用のデコレーションパーツや便利アイテムが多数販売されている。また、ハイエースのカスタムカーを専門に扱う店舗も存在するなど、一見地味とも思わるデザインも、言い方を変えれば車で自己実現したい人には素材として向いている仕様だと受け取ることもできる。

“一見地味”が時代に求められたデザイン

 このようなカスタマイズの余地を残すことで消費者に支持される例は、自動車以外にもみられる。

「たとえば、白無地のワイシャツのほうがジャケットやネクタイの柄が合わせやすいですし、無印良品などのシンプルなデザインの家具は他の装飾品との相性もよく、多くの人から支持されています。アップルのiPhoneも、シンプルなデザインゆえに、ケースやステッカーなどでカスタマイズができる点から好む消費者も多いでしょう。ハイエースもそれと同じで、車両に対する信頼感に加えて、自分でカスタマイズできる余地が残されている点が評価されていると考えられます。」(同)

 情報過多な時代だからこそ、ベース素材をシンプルにして顧客の納得感を二次的に引き出す。そういった売り方も必要になっていることを、ハイエースの例から読み解くことができる。便利さを追求するあまりに顧客に企業の価値観を強く押し付けがちな昨今であるが、素材としての商品価値を今一度見直す時期なのかもしれない。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

武松佑季/フリーライター

武松佑季/フリーライター

1985年、神奈川県秦野市生まれ。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。サウナー見習い。

Twitter:@yk_takexxx

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