ここ数年、公営競技のボートレースの売上がものすごい勢いで伸びていることが一部SNS上で話題を呼んでいる。2021年度の総売上金額は2兆3926億円だが、これは10年前の2011年(9198億円)と比較すると約2.6倍。特に19年から21年の2年間だけで約1.5倍となっている。専門家は「何が大きな要因なのかは、よく分からないというのが正直なところ」というが、その要因は何なのかを追ってみたい。
競馬、競輪などの公営競技の一つであるボートレースは、日本財団創設者である笹川良一氏が1951~52年に創設。一時期の中断など紆余曲折を経て、2007年に全国に18あった社団法人(都府県)モーターボート競走会および社団法人全国モーターボート競走会連合会を一元化するかたちで日本モーターボート競走会が発足。現在では地方自治体が施行者(主催者)として全国に24あるボートレース場で行い、全5グレード(階級)合わせると年間ほぼ毎日どこかのボートレース場でレースが開催されるのが特徴だ。自治体から委託を受けて実際に競技の運営を行うのは一般財団法人の日本モーターボート競走会。同法人はボートレースの審判・検査等の競技運営、競技のルール改正・選手、審判員及び検査員の養成・スター選手の育成等を行っている。
ボートレースの売上のうち75%が払戻金に充てられ、残りの25%は以下に充てられる。
・日本財団への交付金
海洋・船舶に関する問題の解決、福祉や教育の向上、大規模災害の影響を受けた地域への復興支援や災害対策支援、人道支援や人材育成を通じた国際貢献など、国内外の公益事業を実施している団体への事業支援に拠出。
・日本モーターボート競走会への交付金
ボートレースの実施に拠出。
・地方公共団体金融機構への納付金
地方公共団体金融機構を通じて、地方自治体の上下水道の整備などに拠出。
・開催経費
ボートレースの管理費、人件費、施設費、選手への賞金などに拠出。
・レースを主催する地方自治体に組込み
小中学校や体育館、美術館、公営住宅や病院などの公共施設の建設等に拠出。
つまり、売上金はさまざまなかたちで公共財・サービスの整備・拡充にも使われている。ちなみに、各公営競技の売上規模は以下のようになっており、JRAには及ばないものの、競輪を大きく引き離している。
・JRA(日本中央競馬会):3兆2755億円(23年暦年/売得金額)
・ボートレース:2兆3926億円(21年度/総売上金額)
・競輪:1兆1892億円(23年度/競輪車券売上高)
・オートレース:1075億円(22年度/車券売上額)
日本モーターボート競走会の強いリーダーシップ
そのボートレースの売上がここ数年、大きく伸びている。過去の推移をみてみると、バブル景気の1980年代に大きく伸びた売上は91年のピークを境にバブル崩壊とともに右肩下がりとなり、2008年のリーマンショックを経て2010年に底を打ち、その後は徐々に回復。17年頃からその勢いは増し、ついに21年には当時の過去最高を更新するに至った。この推移は他の公営競技も概ね同じであり、たとえばJRAもバブル崩壊後の1993年頃から伸びが頭打ちとなり、その後は低下したものの2011年に底を打ち、現在は3兆円台にまで回復している。そんな公営競技なかでも、過去10年の伸び率でみると、ボートレースの勢いが強い。
その要因は何なのか。北海学園大学 経済学部教授の古林英一氏はいう。
「明確な理由はわからないというのが正直なところですが、バブル崩壊後に他の公営競技の開催場と開催日数が減ったなか、ボートレースは減らさずにインフラも残していたところに景気回復が到来したという点があげられます。また、たとえば競輪は施行団体が40以上あり、数が多いと運営において協調を取るのがなかなか難しくなる一方、ボートレースには日本モーターボート競走会が強いリーダーシップを発揮し業界全体が組織的な動きを取れている点も大きいと考えられます。
このほか、吉本興業のタレントとうまくタイアップしたり、話題性のあるCMを展開したりと、宣伝・広告戦略が非常に巧みな点や、1レースで走るボートが6艇のみで一号艇の勝率が約5割なため、券を買って楽しむには非常に分かりやすいという点も参加人数の底上げにつながっているかもしれません」
(文=Business Journal編集部、協力=古林英一/北海学園大学経済学部教授)