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ニセコ、ホテルの時給高騰→介護事業者が人材確保難で閉鎖…住民はデメリット

文=Business Journal編集部
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北海道・ニセコ(「gettyimages」より)

 インバウンド(外国人観光客)が多数訪れる人気観光地となった北海道・ニセコで、観光客向けの高級ホテルなどのスタッフ時給が2000円台にまで高騰し、地元の介護事業者が人材確保難に陥り閉鎖に追い込まれる事態が発生するなど、地元住民にさまざまなデメリットがおよんでいる。一大観光地化が進むニセコで何が起きているのか。住民の証言をもとに光と影の部分を追った。

 羊蹄山(1898m)の絶景を望む北海道のニセコ町・倶知安町一帯の「ニセコ」と呼ばれるエリアは、バブル期の頃から本格的なリゾート開発が進み、現在ではニセコアンヌプリに4つのスキー場が存在し、その周辺には観光客向けのホテルやコンドミニアム、飲食店などが並ぶ。「東山ニセコビレッジ・リッツ・カールトン・リザーブ」や「パーク ハイアット ニセコ HANAZONO」「ヒルトンニセコビレッジ」など外国資本の高級ホテルチェーンも進出するなど、海外からも注目される観光地となっている。

 実際にニセコ人気は凄まじい。倶知安町には年間約100万人の観光客が国内外から訪れ、同町の宿泊施設の収容可能人数は約1万6000人と、同町の人口約1万5000人を上回るまでに増加。一部の飲食店では天ぷら蕎麦が3500円、刺身定食が4200円となるなど、インバウンドを意識した高額な価格設定もニュースとして取り上げられている。

 そうしたニセコの観光地化が、地元住民の生活に悪影響をおよぼし始めているという。スキー場周辺の「やま」のホテルでは時給2000円以上でアルバイト従業員などを募集しているケースも出ており、「まち」では高い時給を出せない事業者のなかには人材難に陥るところも。昨年12月には訪問介護事業所が閉鎖に追い込まれ、20人ほどいた利用者は他の施設事業者と社会福祉法人 倶知安町社会福祉協議会に引き継がれることになった。同社会福祉協議会に話を聞いた。

「コロナ禍でニセコから観光客が消えて、働き口が激減したことで町から多くの人が流出しました。働き手の数自体が減ったところにコロナが明けて観光客がどっと押し寄せたことで人材の奪い合いが起き、スキー場周辺のホテルなどでは現在、時給2000~2200円という募集も珍しくなくなりました。私どものところではコロナ前の時点で介護要員の時給は1000円以下でしたが、22年に1000円に上げ、その後は1500円で募集をかけていますが、まったく応募がありません。介護報酬制度の枠組みがあるため、時給をこれ以上引き上げることはできず、職員のツテなどをたどって声をかけたりもしていますが、新規の採用には至っていません。

 ホームヘルパーとして働くには資格が必要な点も採用にはハードルになっています。新たに資格を取ろうと思っても、町では研修を受けられる場所がなく、1時間以上かけて大きな市まで通わなければなりません。

 人手不足によって、利用者の方に利用回数を以前より減らしていただいたり、介護要員が出勤できる時間に合わせて利用していただいたりと、ご不便をかけています。日本全体で介護要員の不足がいわれてはいるものの、都会ではまだ利用者がサービスを選ぶことができると思いますが、私どもの町では介護を必要とされる方々が選択肢がない状況になっています。今は古参の職員たちでなんとか現場を回していますが、新規のなり手がいない状況が続けば将来はどうなってしまうのか不安です」

「観光客が増えて『良かった』という実感はない」

 日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、2023年10月の訪日外客数は251万6623人となり、新型コロナウイルス流行前の2019年同月を0.8%上回り、単月としては初めてコロナ前の水準を上回った。23年の1年間の訪日客数は2506万6100人(推計)で、コロナ前の約8割にまで回復。日本政府は、25年までにインバウンド1人あたり消費額を20万円に引き上げ、30年に訪日客6000万人を迎えるという目標を掲げている。

 そうしたなかで多数のインバウンドを引き寄せるニセコは成功例として取り上げられるケースも多いが、地域住民はどうみているのか。ある住民はいう。

「観光客が増えて『良かった』という実感はないです。たとえば、『まち』ではタクシーがつかまらなくなっています。スキー場周辺のホテルから乗る客は1回で3000~4000円分使ってくれますが、『まち』で高齢の住民を乗せても1メーターほどにしかならない。そうなるとタクシーは『やま』のほうへ集まるようになり、『まち』では高齢の住民が病院に行く足を確保できなくなります。外国人の方が一軒家を借りてシェアハウスのようなかたちで住むケースも増えていますが、ごみ収集や雪かきのルールを守らず問題を起こしたり、交通ルールを守らないというケースも出ています。問題が起きても、周辺の住民はそのシェアハウスの所有者が誰で、どのような人たちが住んでいるのかも分からず、声をかけることもできずに不安だけが募っていきます」

 同様の問題は全国各地で起きている。長野ではバス会社が外国人観光客の利用が多い路線の運行を優先させ、一部路線の日曜運休に踏み切り、地域住民の利便性が犠牲にされている。京都では外国人観光客の増加に伴い、市民の市バス利用に支障が生じている。北海道のある自治体職員はいう。

「それまで住民が少なかった地域にホテルなど商業施設が建ち、そこに大勢の人が集まれば、ごみ収集・処分、上下水道などさまざまな生活インフラ面で自治体の負担は増える。そうした施設事業者からの税収が生じるものの、大量に押し寄せる外国人観光客は自治体に税金を落とすわけではないので、自治体にしてみれば負担が増す一方。それに加えて元からいる地域住民にデメリットがおよぶとなれば『結局儲かるのは観光客向けの商業施設の事業者だけ』という構図になる。ニセコでは町全体の地価上昇も進行中で、町の外から投資目的のマネーが流入して上昇が顕著になれば、住民は住む家の確保すら難しくなってくる。インバウンドの誘致が地方創生や地方経済の活性化に結びつくという謳い文句が、以下に絵空事なのかがわかる」

(文=Business Journal編集部)

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