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今枝昌宏「ビジネスモデル考」

なぜ同じメーカーのカメラを買い続ける?競合他社を排除する「製品ピラミッド」より考察

文=今枝昌宏/エミネンスLLC代表パートナー
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なぜ同じメーカーのカメラを買い続ける?競合他社を排除する「製品ピラミッド」より考察の画像1「Thinkstock」より

 製品ピラミッド(Product pyramid)という概念をご存じだろうか。これは、1つの企業が自社製品として低級品から高級品までを品揃えしている状態を指し、これを維持することが利益を生み出すというのである。

 著者が製品ピラミッドの概念を初めて知ったのは、『ザ・プロフィット』(エイドリアン・スライウォツキー/ダイヤモンド社)を読んだ時だった。最初にこの概念に接した時は、正直なところ「だからどうしたの?」としか思えなかった。ところが、この概念は実に奥深いものなのである。

●下からの攻め上がりへの防御に有効

 経営コンサルタントのスライウォツキーは、新規参入者が低価格品に参入することを防止するためのファイアウォールとして、製品ピラミッドが有効だと説いている(詳細は同書参照)。新規参入者は往々にして最も下のグレード(低価格の製品)に参入してくる。それは、低級品であれば生産のために大した技術は必要なく、低級品市場は技術よりも価格を優先する市場であるから、自社の技術不足を問われることがないためである。また、低級品市場は高級品と比較して巨大であるため、多くの参入者にとって狙い目でもある。

 既存事業者としては、一度低級品市場で競合に規模の経済を獲得されてしまい、自社が低級品市場を失ってしまうと、コスト効率や市場支配力で対抗できずに研究開発費や販売組織の維持費を賄うことができなくなり、次第に市場全体における優位性が低下する。一方、競合相手側からみると、低級品で一度市場を獲得してしまえば、そこでの利益をベースに製品改良などを行い、高級品に攻め上っていくことが可能になる。

 既存事業者がこれを防止するためには、利益が上がらないものかもしれないが低級品の品揃えをしっかり行い、新規参入者が入って来る隙をなくしておくことが肝要だと、スライウォツキーは述べている。ちなみに同氏は、玩具メーカーのマテルが低価格のバービー人形を販売していることを例に挙げている。

●顧客ライフサイクルマネジメントの基礎

 競合の参入を防ぐだけでなく、顧客は往々にして低級品から高級品に移動していくため、低級品を入り口として高級品に誘導していくことが有効である(詳細は拙著『ビジネスモデルの教科書』<東洋経済新報社>参照)。つまり、製品ピラミッドに顧客のナビゲーション機能を追加することにより、顧客を低級品から高級品へと誘導していく「顧客ライフサイクルマネジメント」を行えるということだ。

 顧客が低級品から高級品へと移動するドライバーには、いくつかのバリエーションがある。顧客の収入増加による移動、「趣味が高じて」の移動、あるいは売り手と買い手との信頼関係が成熟するにつれての移動などである。この移動を適切にマネージすることによって、企業は売り上げと利益を大きく成長させることができる。この発想は単純な「5つの力(five forces)」的な市場選択論、つまり伝統的なポジショニング戦略論からは出てこないものであり、戦略がダイナミックなものだということ改めて教えてくれる。

今枝昌宏

今枝昌宏

エミネンスLLC代表パートナー。京都大学大学院法学研究科、エモリー大学ビジネススクールMBA課程卒業。ジャパンエナジー(現JX)、PwCなどのコンサルティングファーム、買収ファンドであるRHJI(旧リップルウッド)などでの勤務経験を持つ。著書に『ビジネスモデルの教科書』『サービスの経営学』など、訳書に『戦略立案ハンドブック』(いずれも東洋経済新報社)がある。ご連絡は、imaeda@eminent-partners.com まで。

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