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●移動していくのは顧客だけではない?
さらに進んで考えると、ピラミッド内の製品間を移動していくのは必ずしも顧客だけではないことに気づかされる。新しく開発された技術は、通常、まず高級品に適用されて順次ピラミッドを降りていく。反対に、低級品の性能が次第に上がる結果、市場においては低級品が高級品に置き換わっていく。これは、自動車でもコンピュータでも見られる現象であり、これらの意味でも製品ピラミッドを持っていることは、単一のグレードで勝負するよりも有利なのである。
IBMは昨年、PC事業に続いて、インテル製CPUを搭載したサーバ、いわゆるPCサーバ事業をレノボに売却することを発表した。これは製品ピラミッドという思考よりも、製品ライフサイクルを重視した結果であろう。PCサーバは今後ますますコモディティ化し、利益を上げられないとIBMは見ているに違いない。PCサーバはインテルという供給者支配が強い業界構造も、「5つの力」的な考察においても問題がある。
しかし、エントリー機としてのみならず、サーバ市場全体でますますシェアを伸ばすPCサーバ事業を手放してよいのか。売却によって全体としての事業規模を失った後も、同社が誇る手厚い法人営業部隊を支えることができるのか。一方、レノボは上位機種からの技術注入がなくなった後にも高い製品イメージを支えることができるのか。製品ピラミッドの理論に反する同社の戦略が吉と出るか凶と出るか、IBMとレノボの今後に注目したい。
(文=今枝昌宏/エミネンスLLC代表パートナー)
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