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会社で自殺した社員の遺品を家族に返還しない“あの会社社長”…借金背負わせ給料ゼロ

文=深笛義也/ライター
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会社で自殺した社員の遺品を家族に返還しない“あの会社社長”…借金背負わせ給料ゼロの画像1「Gettyimages」より

「今から思えば、無理矢理にでも連れて帰ってくればよかったんですよ。でも、30近くなっている娘が自分でその仕事をするって言っているのに、そんなことしたらおかしいですもんね。もっと早く社長の正体がわかっていれば……」

 呻くようにそう語るのは、昨年2月25日、ビルの14階から投身自殺した大山莉加さんの父親である。大山さんが自死に至った経緯については、本サイトの昨年11月5日付記事『24時間寝かせず給料0円、会社で共同生活…社員が自殺した広告会社で何が起こっていたのか』に詳述した。

 大山さんは、アニメ、ゲーム、漫画業界の求人広告媒体の販売および、ビジネスマッチングのサービスを提供している、ビ・ハイア株式会社で働いていた。同社の清水有高社長から不当な借金を背負わされ、大山さんは給料なしで働かされ睡眠も奪われていた。自死に至る日に、清水氏から「死んだ方がましという発言で(自分は)傷ついた」「どうやって責任を取るんだ」「ここから飛びおりるのか」などと迫られ、大山さんは「はい」と答えるというやりとりがあったという。

 ビ・ハイアのウェブサイトの昨年10月18日付社長ブログで清水氏は、「大山氏がご逝去される直前、御本人が書いた文面が清水はじめ親御様に届きました。そこには、同氏の決断が個人的な原因および理由によるものであり、弊社の業務とは無関係であることが明記されていました」として、自身の言動と大山氏の自死は無関係であると強調している。

 昨年2月25日午後3時1分に大山さんは「遺書」と題するメールを、父親と清水氏に送っている。そこには自分の家族に対するネガティブな感情が多く綴られている。だがそこには、「2300万円の負債」を「多大な迷惑」をかけたとして書かれており、不当に背負わされた借金が心理的負担になっていたことが見て取れる。

 清水氏の運営するウェブサイト『一月万冊』に掲載されている、いくつもの大山さんの「毒親」に関しての文章や、そこにアップされているYouTube動画での清水氏と大山さんの対話からは、自分の親を毒親だと思わされるように誘導されたのではないかと窺える部分がある。それを確かめるのが、大山さんの父親と会った最大の目的である。

 大山さんの「毒親」に関する発言は『一月万冊』の何本もの記事にあるが、本人のまとまった文章としては、2017年7月18日付ブログ『毒親との決別 日本一醜い親への手紙を自分で自分の親に書いた』がある。

 そこには母親から、「あんたなんか産まなきゃよかった」と言われたという記述がある。大山さんの自死のショックによって、母親は現在、外に出かけられない状態である。思い当たる出来事として、父親が母親から聞き取った内容が以下のものである。06年、大山さんが高校3年生の時のことだ。

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 玄関前にタバコの吸い殻が何本も落ちていて、日増しに増えていくのは気づいていましたが、向かいの家の男の子が捨てているのだと思い込んでいました。莉加のことは信頼しきっていたので、疑うことはありませんでした。

 ある日2階に上がっていくと、莉加が空き缶を片手にタバコを吸っていました。莉加は幼稚園の時、血小板減少症候群で大病をしてるので、タバコなんて有害物質を体の中に入れてほしくないと怒りました。

 1階に降りてからも、「ママは莉加のこと信じているのに、なんで? 病気で死にかけたのに細い血管の中にそんな有害なもの!」とか、「莉加のこと信じている大ママを裏切るようなことして!」と言いながら、ほおを1回、肩や腕を殴りながら、お互い泣きながら向かい合っていました。

「ママはこんなことさせるために莉加を産んだんじゃない!」と泣きながら言い、お互い泣きながら「二度とタバコは吸わないで!」と言い、「わかった、ごめんなさい」と莉加は謝りました。

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 この前後の脈絡が無視され、「こんなことさせるために莉加を産んだんじゃない!」という言葉が、「あんたなんか産まなきゃよかった」に改変されている可能性がある。

 同ブログには、大山さんと清水社長の対談のYouTube動画がある。そこで大山さんは、「こんなんで親を怒らせちゃったという自分を卑下するギャグとして語っていたんです」「(手を上げられたのは)毎回じゃない」と言っているのだが、清水社長は「1回でもあったらNGです」と、それは虐待だと断じている。

 同ブログの大山さんの文章には、母親の発言として以下のものがある。

「あんたを生む時はへその緒が首に絡みついていて本当に大変だった。殺されるかと思った」

 これに対して、父親は言うのである。

「へその緒を首に3回転くらい巻いてたのかな。なかなか出てこなくて難産だった。大変な思いをして産んだんで、母親にとってはよけいにかわいい娘なわけじゃないですか」

 これもまた、実際にあったことが改変されている可能性があるのだ。同ブログでは、以下のような発言が母親のものとされている。

「あんたはパパ似でマイペースで、足の形もカエルみたいに潰れてていやだね」

 父親は言う。

「学生の頃はおっとりしたところがあったので、マイペースという言われ方をされたんでしょうね。そのこと自体は、そんなに真実とは違うとは言わないです」

 やはり、実際の発言が改変されている可能性がある。

 大山さんは専修大学在学中の08年、インターシップでビ・ハイアで働き始めた。大学4年生の時の10年元旦、帰省していた大山さんに清水社長から電話があり、打ち合わせがあるということで、1月2日には帰って行った。「まだ大学生でインターシップなのに……」と、家族は不審に思った。ちなみにインターシップとしての賃金は、1日1000円である。

見え始めた異変

 大山さんは、10年にビ・ハイアと業務委託契約を結んだが、事実上は雇用関係であった。12年、大山さんから母親に以下のようなメールが来た。

「すごく貴重なセミナーがあって今申し込みしないと受けれなくて仕事にも必要でぜひ受けたいんだけど、150万くらいかかるけど無いから貸してほしい」

 母親は、以下のように返信した。

「そんな高額なセミナーって本当に必要なの? もう一度どうしても必要なのか社長に確認したほうがいいんじゃないの? ママはそんなに貸せないよ」

 時間をおいて、大山さんから再びメールがあり、以下のやり取りとなった。

「ごめんなさい。セミナーというのは嘘です。実は住むところがなくて後輩も会社を辞めるって言うから、私が部屋を借りて3~4人の後輩を住まわせて一緒に住むことにして、家賃が36万くらいのロフト付きの西荻窪のマンションで敷金・礼金で150万くらいかかるの」

「え? なぜ莉加が負担するの? 寮ということなら会社が払うんじゃないの? 莉加はまだ24歳だよ。1人で住むならそんな広い高いマンション、必要ないじゃない」

「後輩に辞めてほしくないし、少しだけど家賃ももらうから。すべて仕事のためだから……。お金は先輩に借りたからもういいから、それに、私もママが思ってるより毎月40万は稼いでいるから、大丈夫。ちゃんと自分で返していくから」

「ママは借金は嫌いなのよ。人からそんな大金借りてまで……。その先輩は人に貸すほど稼いでいるの?」

 この時点ですでに、社員が住むための住居を大山さんが借りることで、借金が生じている。これに疑念を呈している母親が、果たして「毒親」ということになるだろうか。

 同じ年の夏には、夏服がないと大山さんからメールをもらった母親は、食料と一緒に服を送った。大山さんからは、感謝のメールが届いた。

「荷物届いたよ! ありがとう! これで当分生きていけるわ! 半袖が増えてよかった! ワンピースがかわいい!」

 13年7月10日、大山さんから母親にメールが届いた。

「相談があって連絡しました。まず、この前入金してもらった10万円、使わないって宣言したのに営業交通費が足りなくなって使ってしまいました。ごめんなさい。

手元の現金が無くてこのままじゃ返すどころの話じゃありません。本当にごめんなさい。

このままさらに頑張ればさらに会社も軌道に乗ってうまくいくと思うんだけどだんだんしんどくなってきました。

朝から晩まで時間を投下して今を犠牲にしてその間も利息はついていくわけだしパートでもして借金を減らすべきか悩んでいます。

とはいえ、今仕事辞めてもすぐに仕事が見つかるとは限らないし何か資格があるわけでもない。現金も家もないからどうしようもなくて迷惑かけるばかりでせっかく大学まで出してもらったのに何やってるのか、こんな相談ばかりして自分が情けないです」

 母親は仕事中で返信できなかったが、この日、大山さんは清水社長に辞めたいと話したようだ。だが給料を上げるからなどと説得され、思いとどまった。夜になって、母親は大山さんにメールした。

「そんなにがんばる必要などないから借金が少ないうちにビ・ハイアを辞めて家に帰ってきなさい。平凡な幸せで良いんだから、毎日楽しくたまには旅行したりするくらいならいくらでも仕事はあるから」

 これと前後して、大山さんは妹さんとも、ビ・ハイアを辞めることについてメールのやり取りをしている。

 7月中旬、西荻窪のマンションを解約したということで、大山さんから実家にトラック1台分の荷物が送られてくる。

「こんな何もかも送ってきて、生活出来てるの?」

 母親が心配のメールを送ると、大山さんから返信が来た。

「お金が無いから。社長が事務所に住んで良いって言うから。お風呂もあるし、大丈夫、ここに住んで早く借金を返すから」

 母親の「楽しいことしましょう」という提案で、妹さんも交えて3人で7月下旬、ディズニーランドに行っている。事務所ではプライベートが無いからと、8月になって大山さんは部屋を借りた。この時の引っ越しには、家族全員で手伝いに行っている。この頃、母親、大山さん、妹さんの3人は、頻繁に交流している。

 13年12月8日、ららぽーと東京ベイ。14年5月、大山さんの部屋に遊びに行った後、近くのイタリアンでランチ。同年6月22日、ディズニーランド。同年7月19~20日、箱根旅行。同年10月19日、ディズニーシー。同年11月30日、ディズニーシー。15年のゴールデンウィークには、母親、大山さん、入籍した妹夫婦の4人で六本木ヒルズで映画を見た後、大山さんの部屋で寛いでいると、清水社長が来たという。休み中になぜ社長が来るのかと不思議に思いながら、母親が言った。

「休みもなかなか取れないようで誘っても返事をくれないんですよ」

「大山ー、休んでるよなー、この間も生理休暇で休んだよなー」と清水社長。大山さんは、社長の顔色をうかがうようにして言う。

「だって、しょっちゅうディズニー行こうって言うんですよ」

「そんなことないでしょ」と母親は言った。

 15年にもディズニーシーに出かけるなど、家族の交流は続いた。12月には妹さんの結婚式があり、大山さんはエスコート役を務めた。2016年1月17日には家族全員で、ららぽーと東京ベイで映画鑑賞。同年1月31日は、母親と大山さん、妹夫婦でディズニーシーに行っている。この間、両親は大山さんに経済的援助も行ってきた。

不当な借金

 ビ・ハイア内で起きていることは家族の知るところではなかったが、16年2月、清水社長は従業員の3名に「会社を潰すことを考えている」と言った。潰さないでほしいと懇願する3人に対して、「これまで嘘をついて結局何も変わらなかった責任を取るため」として、それまで奢った飲食代や買い与えたブランド品の費用を2000万円の貸付金として、大山さんら2人に返済を求めてきた。2人は職を失わないために、それに従って連帯保証契約を結ばされた。債務の返済として給与の全額を天引きされるというかたちで、給与が出なくなった。

 4月、仕事の状況を交際男性に伝えたことが守秘義務違反に当たるとして、大山さんは2000万円の損害賠償請求を受けた。5月には大山さんは自分の部屋を引き払い、他の2名と一緒に会社の事務所に居住するようになる。

 この4月頃から、ブログなどでの大山さんの「毒親」発言が増えていく。それまで頻繁にあった家族とのLINEのやり取りが、途絶えがちになってくる。そんな頃、父親は一度、大山さんに会った。

「私はその頃、東京に単身赴任してたんです。会いに行っていろいろ話してたら、母親のことをずっと嫌いだったとか言い始めて、しまいには私に母親と別れろって、あんな母親と一緒にいたくないからって……。それはできないよって、いろいろ話したんです。感情の起伏が激しくなっていて、話してても急に泣き出したり……。その時もお金に困ってたみたいなんで、10万円くらい持たして帰したんです」

 17年になるとブログでの大山さんの「毒親」に関する発言はエスカレートし、家族とのLINEをブロックするようになる。最後まで連絡が取れていた父親は、大山さんにメールをしたという。

「毒親の投稿を見たと、メールを入れたんです。どう考えても話が違うから、ゆっくり話し合おうよって。住むところがなくて困っているようだから、私は単身赴任でワンルームにいるけど、土日、私が家に帰ってる時に来て、洗濯してもいいしゆっくり寝ててもいいし、好きなことやっていいよって、ちゃんと地図も描いて鍵のありかも書いて、送ったんです。それでも1回も来ませんでした。まあ30近くなって大人なんだから、いいこと悪いことの判断はできるだろうから、いずれは帰ってきてくれるだろう、というふうに夫婦ともに思ってたんですけどね」

 給料が出ず、睡眠も取れず、食事は乾燥大豆を1日1食だけという生活の実態は、大山さんの死後、彼女の同僚の大下さんらから聞いて知ることになったという。

自死

 父親が大山さんから「遺書」というタイトルのメールを受け取ったのは、昨年2月25日午後3時1分であった。そこには「この後私は死にます」と書かれていた。

 午後3時40分頃、事務所の入っているビルの2階部分で、頭から血が広がっている状態で、大山さんが横たわっているのを同僚の大下さんが発見した。14階の非常階段から身を投げ出して自死したものだった。

 警視庁赤坂警察署で、変わり果てた大山さんに父親が対面したのは、午後8時頃だった。その際、清水社長が大山さんに対面したいと刑事に頼んでいたが、「親御さんとの対面が先です」と退けられるということがあった。父親は、大山さんの遺品を受け取る。その時のことを父親は振り返る。

「びっくりしたのが、遺品の少なさ。単行本2冊、以前にディズニーランドで買ってあげたコロン、折りたたみ傘、生理用品。それくらいしか渡されなかったんですよ。それは警察の方が清水社長から直接受け取ったものだったんですね。現場検証の際、『これだけなんですか? 洋服とかないんですか?』って訊かれて、『洋服やバックは全部俺が買い与えた物だから、彼女の物じゃない』と清水社長は刑事さんに答えたそうです」

 2月27日にお通夜、28日に告別式が行われたが、清水社長は参列していない。父親によれば、その後の成り行きも不可思議だった。

「3~4日経って警察の方から電話があって、清水社長がお宅の住所と電話番号を教えてくれと言ってきていると言うんですね。そんなこと知らないわけないじゃないですか。自分のところの従業員の実家の住所やなんかを、知らないわけないじゃないですか。『教えてもいいですか?』って言うから、『やめてください』って言ったんです。そうしたら2週間後くらいに、宅急便で花を送ってきたんですよ。『莉加の好きな花でした』みたいな感じで……。結局は知ってるじゃないかと。親御さんと連絡が取りたいんでみたいなかたちで、警察に対してアピールしているのか、何の意味でやったのかはわからないですけど」

 大山さんの遺品はビニールのゴミ袋2つにまとめられていたという、大下さんら同僚の証言もある。父親が把握しているだけでも、銀行通帳、印鑑、キャッシュカード、運転免許証、年金手帳、財布、マイナンバーカード通知、キーケース、服、下着、靴、アクセサリー、メガネなどがあるはずだという。

「弁護士さんにも相談して、遺品の返還要求を配達証明で清水社長に送りました。配達されたという証明のハガキは来ましたけど、社長からの連絡はありません。娘の名刺の肩書きは『執行役員』だったんですけど、それも弁護士さんに登記を調べてもらって『執行役員ではないですよ。名目だけの執行役員です』と教えてもらいました。キーケースには実家の鍵もありますから、心配で警察にも相談したんですけど、『社会的地位を持ってる方なんで悪さはしないと思いますよ。もし心配だったら近くの交番に行って見回りを頼んでください』ということでした。鍵はすべて、取り替えましたよ」

 清水社長の側の見解も聞こうと、筆者はさまざまな手段を講じた。大山さんの遺品さえ返還しない理由も質したのだが、回答はなかった。

 1月11日、ビ・ハイアを相手取った第1回口頭弁論が、東京地裁で行われた。原告らは意見陳述を行い、大山さんの父親は「娘が奴隷的な生活をさせられた。厳格な裁判を求めます」「毒親というのは事実ではありません。名誉毀損に当たります」と語った。清水社長も出廷したが、終始、無言のままだった。

 同日、清水社長が記者会見を行ったことを後になって知ったが、彼の見解を求めて何度も連絡を取っていた筆者には、その告知はなかった。
(文=深笛義也/ライター)

※後編に続く

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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