例えば、消火器や浄水器、羽毛布団の訪問販売などで詐欺に遭ったら、あなたはどうするか。被害額は数万円から多くてもせいぜい20~30万円程度だ。弁護士を雇って加害企業を訴えるのは、もちろん可能だが、弁護士に正式に依頼するには着手金として数万円~30万円ほど必要になるケースが多い。お金を取り戻したとしても、裁判の費用対効果が悪すぎる。とはいえ、あなたを騙した加害企業は厳然と存在する。
詐欺や事故、企業の過失によって被害を受けたものの、提訴するための弁護士費用がまかない切れず諦めてしまうケースが少なくない。被害額が弁護士費用よりも少ない場合はなおさらだ。そうした「少額被害者」は年間約16兆円分存在するといわれ、救済されることなく放置されているのが現状だ。
こうした“泣き寝入り”を根絶すべく、伊澤文平弁護士が代表を務めるベンチャー企業、クラスアクションは、昨年5月に集団訴訟プラットフォーム「enjin(円陣)」を立ち上げた。集団訴訟を提起したい被害者と案件を引き受ける弁護士をつなぐオンラインサービスだ。
話をかなり単純にすると、被害者が30人集まれば、一人当たりの弁護士費用負担は安く済む。弁護士にとっては、同じ被害内容であれば何人でも手間は変わらない。そもそも、1人で裁判を起こすのは心細いものだが、同じ被害に遭った仲間と一緒なら、悪い企業に立ち向かおうという気にもなるものだ。
実際の使い方としては、被害者が新規で案件を立ち上げるケースと、すでに掲載されている案件に合流して被害者団体を組織するケースの2通りがある。それぞれの案件について、サイトに登録している弁護士の中から引き受ける人が出れば交渉の上、訴訟準備へと進むことになる。現在、約150人の弁護士が登録している。サイトを見ると、約150案件が掲載されており、「詐欺・消費者被害」が圧倒的に多い。そして、そのなかでも仮想通貨関連の詐欺被害が多いのは、世相を映しているといえる。
これまで13件がすでに提訴に至り、20件は訴訟準備中で、1件が和解している。その1件は、ネット上に詐欺企業として社名が出されたために、被害者の数が増えていく現実を見た加害企業が和解を申し出てきたという。詐欺事件の抑止効果もあるということだ。