3月21日に現役引退を表明した、シアトル・マリナーズのイチロー氏。4月5日、政府からの国民栄誉賞授与の打診を辞退したことがわかり、注目を集めると同時に、同賞の“不要論”まで飛び出している。
イチロー氏が国民栄誉賞を辞退するのは今回が三度目。一度目はメジャーリーグにデビューして最優秀選手や新人王に輝いた2001年で、「戴けるものなら野球人生を終えたときに」との理由で辞退した。84年ぶりにメジャーのシーズン最多安打記録を更新した04年に再度打診されたが、「プレー中はもらう立場にない」と固辞している。
そして今回、三度目の打診があったものの、イチロー氏は「人生の幕を下ろしたときに戴けるよう励みます」と、以前と同様に辞退した。インターネット上では、「死ぬまで野球人だというイチローなりの意思表示なのかな」「イチローらしくていい」といった声が続出。一方で、「政治家に自分の名前や功績を利用されたくないのでは?」「政権の人気取りのような賞だし、そもそも二度も拒否されたのにしつこくあげようとするのが失礼。今後は賞の権威が低下しそう」との意見も相次いでいる。
そもそも、国民栄誉賞とはどのような賞なのか。内閣府公式サイトによると、1977年8月に国民栄誉賞表彰規程が定められ、「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えることを目的」と記されている。表彰の対象は、「内閣総理大臣が本表彰の目的に照らして表彰することを適当と認めるものに対して」とのことだ。
受賞者一覧も公開されており、第1号は「ホームラン新記録達成の功」を称えられた王貞治氏。ほかにも、衣笠祥雄氏や高橋尚子氏らスポーツ選手が目立つものの、美空ひばり氏(歌手)、長谷川町子氏(漫画家)、黒澤明氏(映画監督)といった文化人も死後に受賞している。
イチロー氏と同じように辞退して注目されたのは、83年に盗塁の最多記録を打ち立てた福本豊氏だ。「立ち小便ができんようになる」との理由が話題を呼んだが、のちに「週刊ポスト」(小学館)のインタビューで「王さんのように野球人の手本になれる自信がなかった」「記録を作るだけでなく、広く国民に敬愛されるような人物でないといけない」と本心を明かしている。
選考基準が曖昧であることから、これまでにも「政治利用が目的」と指摘されることも多い国民栄誉賞。特に安倍晋三政権では歴代政権最多の7人が授与されており、「乱発しすぎ」「重みがなくなる」との批判が上がっている。
舛添要一前東京都知事は、イチロー氏の三度目の辞退について「正解だと思う」「もうこの賞は廃止したほうがよい」「権力が利用したがる国民栄誉賞などなくても、イチローは世界のスーパースターである」とツイートしている。ジャーナリストの江川紹子氏も、舛添氏のツイートを引用して「共感するところが多い」と支持している。
「過去二度は現役であることを理由に辞退しているので、政府としては『今度こそ』との思いがあったことでしょう。人気も実績も申し分ないので国民の納得も得られる上、『令和第1号』という記念碑的な意味を持たせることもできる。安倍政権としては、日米で活躍したスーパースターの国民栄誉賞授与を決定→史上初の10連休と天皇譲位→夏の参院選、と突き進むのが最高のシナリオだったのではないでしょうか。そのため、満を持しての打診だったはずですが、空振りに終わったことで盛大に赤っ恥をかいたと言えます」(週刊誌記者)