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ゼンリン、決別したGoogleマップを脅かす強力なライバルに…強かな経営と無敵の技術力

文=編集部
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ゼンリン、決別したGoogleマップを脅かす強力なライバルに…強かな経営と無敵の技術力の画像1ゼンリンのHPより

 3月22日の東京株式市場。国内地図情報提供会社トップのゼンリンの株価が一時、値幅制限の下限(ストップ安)となる前日比500円安(16.9%安)の2457円へと急落した。4月12日の終値は2498円、年初来安値は1月4日の2262円である。

 日本版のGoogle Maps(グーグルマップ)は、2005年のサービス開始時点からゼンリンより地図データの提供を受けてきた。これまでグーグルマップ上に表示されていた著作権を示す「ZENRIN」のマークが消えたことから、他のデータに切り替えた可能性が取り沙汰され、マイナス材料と判断する投資家が多かったのだ。

 グーグルマップは3月21日頃から有料道路と一般道路の見分けがつきにくくなったり、道が一部消えたりしていることがインターネット上で指摘されていた。これまであったバス停などの表示も消えていた。航空写真を人工知能(AI)で分析して地図をつくったことが原因だと指摘する専門家もいる。一部は修正されたが、国内で約4000万人が利用しているグーグルマップだけに、情報精度の劣化への批判が強まった。瀬戸大橋があり得ない曲がり方をしていたり、各所で情報の歪(ひず)みが目立った。

 ゼンリンはグーグルへの地図データ提供を縮小、あるいは中止したとの観測が流れ、ゼンリンの株価が急落した。ゼンリンは360度全方位を撮影できるカメラやレーザー計測機器を載せた車両を使い、都市部は年1回、その他は2~5年で地図情報を更新する。新たな道路や道路標識の変更、私道・公道なども把握する。グーグルは、これまで日本では細かい地図データの大半をゼンリンに頼ってきた。

 グーグルは3月6日、日本でも地図データをダウンロードできるオフライン機能を含む新しい地図サービスを提供することを明らかにした。ダウンロードしておけば、インターネットがつながりにくい環境でも地図を利用できる機能が付加されたわけだ。このダウンロード機能で両社は対立したのではないか、と見るアナリストもいる。

 アップルが2012年、地図をグーグルマップから独自開発のものに切り替えた途端、実在しない地名が表示されるなどの不具合が生じ、大騒ぎになった。今度は、グーグルマップで不具合が生じたわけだ。

Googleマップの対抗軸

 デジタル地図はグーグルマップの一強状態である。地図データは次世代技術の自動運転で不可欠になるだけでなく、ゲームなど身近なサービスでも活用が広がる。消費者向けサービスではグーグルマップを搭載したスマートフォン(スマホ)をカーナビ代わりに使う利用者が増加。無料で精度も高く、パイオニアなどカーナビメーカーの業績が急降下。パイオニアが身売りする遠因にもなった。

 自動運転分野ではグーグルが先行しており、すでに米国の一部の州で自動運転車による配車サービスを実用化した。自動運転向け地図でもグーグルが先頭を走っている。グーグルの独走に対する危機感から自動運転地図データで日米の企業が手を組んだ。3次元の地図データの研究開発を手がけるダイナミックマップ基盤(DMP)は、米ゼネラル・モーターズ(GM)系地図企業のアシャーを買収。DMPにはトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、ゼンリンが出資している。トヨタやGMが高精度な地図データを共有できる体制を築く。

 欧州ではフォルクスワーゲン(VW)など独自動車大手3社が共同で地図大手ヒアを買収した。日米欧の自動車メーカーは先行するグーグルや政府主導で開発を進める中国勢に対抗する構えだ。グーグルは地図データを自前で開発してきたが、複雑な地図データが求められる日本が最後になった。グーグルは日本でも地図データを自前で作成するという大きな流れができている。

自動運転用の地図をめぐる対立なのか

 グーグルがゼンリンとの契約を変更した背景には「自動運転をめぐる対立があった」(AI担当のアナリスト)という見方も浮上している。ゼンリンは自動車大手やINCJ(旧産業革新機構)と組んで自動運転で使える地図の実用化を進めている。“宝の山”といわれている自動運転用の地図情報の分野で、グーグルとゼンリンは実はライバルなのだ。

 3月、ゼンリンは地図作製サービスの米マップボックスとの提携を発表。ゼンリンが日本国内の地図データを提供する。マップボックスはオープンストリートマップ(OSM)を基盤に、地図データを提供する企業として急速に力をつけている。企業のウェブサイトなどに地図を組み込むためのサービスを提供。地図データが更新されると、利用者が加工した地図データにも、それが反映される仕組みだ。

 OSMはオープンソースで地図データをつくる世界的プロジェクトで、米マイクロソフトやフェイスブック、トヨタ自動車、日立製作所、ソフトバンクグループなど数百社が利用している。グーグルマップの有力な対抗馬になると期待する向きもある。

 マップボックスは、これまでも電気自動車ベンチャー、テスラのナビゲーションシステムを担当し、17年にはソフトバンクグループのビジョン・ファンドが180億円出資した。さらに、ソフトバンクグループがトヨタと共同で立ち上げる次世代MaaS(移動サービス)でもマップボックス技術が使われるとみられている。

 ゼンリンにはトヨタ自動車が7.46%を出資(18年9月中間期時点)。自己株口(自社株)を除けば、トヨタが創業家の資産管理会社サンワ(保有比率9.20%)に次ぐ第2位の株主だ。デジタル地図で、ゼンリンはトヨタと行動と共にしている。トヨタが出資するDMPに参加。グーグルとの距離が明らかになると、すかさずトヨタも加わるOSM陣営のマップボックスに地図データの提供を決めた。

 世界のグーグルマップに対峙できるのは、日本ではゼンリン1社しかない。国内の地図ではゼンリンと昭文社が大手だったが、ここにきて大きく差が開いてしまった。書店で売られている地図「マップル」で有名な昭文社は、デジタル化に遅れたことが響いた。19年3月期の連結最終損益は6億3500万円の赤字で3期連続の赤字となる。重荷となっていた人件費の削減のため3月末で96名の希望退職を実施した。

 住宅地図からスタートしたゼンリンは、中興の祖である創業家の2代目、大迫忍氏がいち早くデジタル化に取り組んだことで、企業向けデジタル地図が開花した。ゼンリンの19年3月期の連結決算は売上高が前期比4.3%増の640億円、営業利益は6.6%増の58億円、純利益は10.9%増の37億円と増収増益を見込む。カーナビ用地図の新車採用が増えたこと、不動産業や宅配業者のデジタル地図利用が伸びたことによる。

 19年3月期決算ではグーグル問題の影響はほとんどないとみられるが、20年3月期の第1四半期(4~6月)の業績では、脱グーグルの成否がはっきりしてくる。

 なお、ゼンリンは3月21日以降のグーグルとの契約については「グーグルとの取り決めがあって開示できない」としている。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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