アメリカによる中国の通信機器メーカー・華為技術(ファーウェイ)への制裁が本格化している。その要因として、安全保障の問題がたびたび指摘されている。ファーウェイの機器を通じて世界的に情報が収集され、中国政府に漏えいするリスクがあるといわれている。
もちろん、こうした危険性は否めないだろうが、アメリカによる制裁の本気度を見ると、安全保障のリスク以上に、それほどまでにファーウェイには通信機器メーカーとしての底力があるのかと感じる。
もちろん、多くの報道機関が取り上げているように、これまで欧米企業からの盗用などがあったかもしれないが、2018年度に国際出願された特許の件数でファーウェイは世界1位になっている。しかも特許数は5405件と、2位の三菱電機(2812件)の2倍に迫る数字となっている。そのほか、技術、生産、販売などにおいても、我々の予想をはるかに上回り、アメリカをはじめ世界的大手通信機器メーカーを凌駕する底力を持っているといえるだろう。
政治に対する経済の無力さ
現在、通信機器の国際市場において日本企業は強い存在感を示せていないが、過去には大きな力を保持していた時代もあった。たとえば、日本企業の携帯電話端末は1980年代の国際市場においての半数近くのシェアを持っていた。また、現在、通信規格で話題の5Gの3世代前である2Gにおいて、日本発の規格であるPDCは欧州発のGSMに対してなんら遜色はなかった。しかし、技術的優劣ではなく政治的な要因によって、GSMが国際標準となり、以降、日本の携帯電話端末も国際市場において影響力を失っていった。
また、現在、国際的にOSを支配しているのは、アメリカの企業であるマイクロソフトのウィンドウズであるが、当初は坂村健氏により開発された日本初のOSであるトロンのほうが先行していた。しかしながら、アメリカ経済への悪影響を危惧したアメリカ政府の干渉により、日本の文部省(現文部科学省)が学校に配布する教育用パソコンへのトロンの採用を取り下げるといった事態が生じるなど、トロンは勢いを失ってしまった。
このように、政治の力の前に経済は実に無力だ。経済はルールに従って行動しなければならないが、政治はそのルール自体を自由につくり変える力を有している。
今回、アメリカが政治の力を利用してファーウェイを叩こうとしている事実は、もはや経済における自由競争では米国企業に勝ち目がないと判断していることの裏返しかもしれない。