「安倍政権の黒幕」「日本の政治を牛耳る」――。
日本最大の保守系団体「日本会議」には、こんな枕詞がつきまとう。安倍晋三首相や麻生太郎財務大臣をはじめ、多くの有力政治家が支援する日本会議は、一方ではメディア露出は少ない。謎多き団体である。
そのため、ときに日本会議をめぐる言説は冒頭のような陰謀論にまで発展する。いったい、日本会議とはどんな団体で何を目指しているのか。日本会議広報部長の村主真人氏に話を聞いた。
会員4万人、加盟議員290人…日本会議の全貌
――日本会議の組織概要と沿革から、お願いします。
村主真人氏(以下、村主) 「誇りある国づくり」の国民運動に邁進し、5月で結成20年を迎えた民間の国民運動団体です。会長は田久保忠衛・杏林大学名誉教授で、会員は約4万人。全国を9ブロックに分け、全都道府県に本部を構えており、250支部が結成されています。超党派の国会議員で構成される「日本会議国会議員懇談会」の加盟議員は約290人です。
昭和49(1974)年は「保革伯仲」の時代といわれました。今の「民共合作」と共通するかもしれませんが、学生運動が下火になったとはいえ、容共政権が誕生する可能性があった時代です。
しかし、宗教と共産主義は相容れない思想なので、学界と宗教界が大同団結して、「わが国の伝統精神に則り愛国心を高揚し、倫理国家の大成を期する」などの方針を掲げ、同年に「日本を守る会」が結成されました。
同会には、山岡荘八、安岡正篤などの文化人も参加していました。昭和53(1978)年には、「元号法制化実現国民会議」(石田和外議長)が結成され、翌年には元号法制化を実現。その後、昭和56(1981)年に「日本を守る国民会議」に改組されます。
君が代や日の丸を大切に思う気持ち、家族の価値の尊重、憲法改正などの実現に向けて、「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」が合併して、平成9(1997)年5月に「日本会議」が誕生します。そして、我々の要望を政治で実現していくために「日本会議国会議員懇談会」が結成され、現在に至っています。
国会議員懇談会は平沼赳夫議員が会長を務め、古屋圭司座長のもとで憲法改正プロジェクトチームが、衛藤晟一座長のもとで皇室制度プロジェクトチームが、それぞれ約30名のチームで月2回程度の研究会を開催しています。
――安倍首相も「日本会議国会議員懇談会」のメンバーです。5月には、自民党総裁として「9条に自衛隊明記を」「2020年を新憲法施行の年に」と表明しました。日本会議が活動のなかでもっとも重要視しているのは、やはり憲法改正でしょうか。
村主 日本会議は、日本を守る国民会議の結成当時から新憲法制定を大きなテーマとしており、憲法改正シンポジウムを各地で開催するなど、世論喚起に努めています。
過去の自民党政権は、首相に就任すると「私の在任中は、憲法改正を考えていません」と答弁するのが通例になっていました。
平成12(2000)年に国会に憲法調査会が設置され、その後、常設の憲法審査会に生まれ変わり、憲法を常に論議する土台ができあがりました。平成24(2012)年には憲法改正に真正面から向き合う第2次安倍内閣が誕生し、昨年の参議院議員選挙では、衆参両院で改憲派の議席数が3分の2を超えるなど、ようやく憲法改正を発議できる環境が整いました。
自民党内でも本格的に議論がスタートしたのは、当然の動きであると受け止めています。この歩みを進めていかなければなりません。
「戦前回帰は誤解」「自衛隊が憲法に未規定は異常」
――憲法改正においては、どのような希望がありますか。
村主 日本会議は、東西冷戦が終わり、新たな時代の国家像が問われた平成5(1993)年に「新憲法の大綱」を策定し、骨格を示しています。
第1次安倍政権当時、国会で「国民投票法」が成立し、「憲法改正の発議は内容が関連するテーマごとに行われる」と定められました。そのため、日本会議は現在、テーマごとに改正の必要性を提言しています。
たとえば、「天皇の地位は象徴に留まらず国を代表する元首に」「違憲の疑いがあるとされる自衛隊の明記」「96条の憲法改正手続きの簡素化」「緊急事態条項」「家族の保護」「環境」など、その内容は多岐にわたります。