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“印鑑レス化”法案、印章業界の猛反発で提出見送り…電子認証化への障害、世界的にも稀有

文=沼澤典史/清談社
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「gettyimages」より

 さまざまなシーンで電子化が進み、ペーパーレスのやり取りが普通になってきている日本社会で、いまだに必要とされているのが「印鑑」だ。ネット上でも印鑑の存在を疑問視する声は多く、「ハンコ業界が巨大な圧力団体なのでは?」などという陰謀論までささやかれるほどである。

 では、なぜ日本では印鑑が廃れないのか。電子化による印鑑レス社会の到来は実現するのか。コミュニケーションディレクターの松浦シゲキ氏に聞いた。

手続き電子化に印章業界が猛反発

 各種手続きの書類などで、必ずといっていいほど必要とされる印鑑。行政機関との手続きはもちろん、会社でも上司のハンコひとつもらえなければ作業が滞ることも多い。

 2018年に政府が発表した「デジタル・ガバメント実行計画」では、政府・地方・民間のすべての手続きの電子化を目指し、それによって国民・行政機関の双方の時間や手間、コストを削減できると見込んでいる。

 しかし、これに印章業界が猛反発し、政府に「『デジタル・ガバメント実行計画』に関する要望書」を提出。これが奏功したのかは不明だが、19年中の国会審議を目標にしていた会社登記の「印鑑レス化」に関する法案は、先の通常国会での提出が見送られた。

 今や世界では電子署名が主流となっており、印鑑を使っているのは日本、台湾、韓国のみ。しかも、台湾、韓国は統治・併合時代に日本から導入されたシステムの名残だという。

 台湾ではフルネームのオーダーメイド印鑑が主流で、日本のように量産型の三文判はない。韓国では、画数が少ないハングル文字は偽造しやすいことから、14年までに段階的に全廃する法案が提出された。ここでも業界団体の反発があり先延ばしになっているものの、廃止は時間の問題と見られ、最近はサインや電子認証が普及しているという。印鑑発祥の地として知られる中国でも、もはや印鑑は工芸品であり、実務上ではサインが主流となっている。

 こうして見ると、実質的に印鑑文化は日本独特の風習であり、世界的に見ても稀有なものといえそうだ。

銀行口座も印鑑レスで開設可能に

 世界的にペーパーレス化や電子認証が進むなかで、なぜいまだに日本は印鑑を使用しているのか。松浦氏はこう話す。

「『先々の便利より、その場の楽』。この精神に尽きると思います。日本では、実務面で変化するコストを面倒くさがる文化が根強い。また、承認としての印章はサインより動作コストが低いので用いられているのでしょう。あとは、文化的に『印章が絶対に必要』という認識が思いのほか強いのではないでしょうか。法律上はサインでもいいのに『会社の規定で……』と印章を求められる場合が多いですから」(松浦氏)

 サインするよりも判を押す行為を「楽だ」と感じる精神と、「印鑑が必須」という思い込みが、「印鑑レス化」を阻害している可能性があるという。

 たとえば、印鑑が必須と思いこんでいる人が多い「銀行の口座開設」も、最近は印鑑不要で開設できる銀行が増えている。三井住友銀行では16年から電子署名を導入し、りそなグループは静脈認証、三菱UFJ銀行は印鑑不要のスマホ口座開設も実施している。

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