消費増税の1カ月ほど前。賃貸物件の居住者にある通知書が送られてきたとして、Twitter上で話題になっている。「消費税増税に伴う賃料等の改定について」と題する通知書の画像だ。法律では、居住用物件の家賃は消費税は非課税だ。このため「一部業者が便乗値上げをしているのでは?」との指摘も相次いでいる。
ネット上で出回っている「賃料改定通知書」を確認した限り、多くは賃料そのものではなく共益費などを値上げしている。消費増税を理由としつつも、注意書きとして「居住を目的とする物件の家賃は増税の対象ではありません」と記載されているものがほとんどだ。
住宅用物件の賃料は非課税
国税庁は今回の消費税改定に伴う賃貸物件の家賃について、ホームページ上で次のように説明している。
「住宅用としての建物の貸付けは、貸付期間が1カ月に満たない場合などを除き非課税となります。ただし、契約において住宅用であることが明らかにされているものに限ります」
つまり家賃は非課税なので、消費税とは関係がなく、増税を理由とする値上げはできないということだ。しかも、大家が家賃の値上げを行うためには、借地借家法第32条1項に記載されている3条件のどれかを満たす必要がある。
(1)土地や建物の租税等の増加によって、土地、建物の価格が上がり、現在の家賃が不相当となった場合
(2)経済事情の変動により、現在の家賃が不相当となった場合
(3)周辺の類似物件の家賃と比べて、不相当となった場合
今回の例でいえば、家賃が非課税でなければ、税金の増加によって建物の価値が上がったことになるので、借主に申し出ることができる。それでも申し出ることができるだけで、賃料の値上げには大家と借主双方の同意が必要なため、一方的に通知し、勝手に決定することはできない。東京都内の不動産管理業者は次のように話す。
「より正確に通知するのであれば『消費税増税に関する賃料・管理費・そのほか費用の値上げについて』というのが正解でしょうね。便乗値上げではないかとのご指摘は、こうした通知後、よくいただきます」
千葉県内のアパートオーナーは困惑しながら話す。
「新築に近い大きなマンションであれば、それなりに利益は出ているので吸収できるのでしょうが、築年数が20年以上の小規模物件の大家にとってはかなり大きなマイナスです。受け取る家賃には消費税がかかっていなくても、大家が管理会社などに支払う物件の維持管理手数料、リフォーム費用、振込手数料に消費税はかかっています。
しかも、修繕などにかかるリフォーム業者の人件費は、人手不足の影響で高騰する一方です。貸付戸数にもよりますが、1桁台の物件貸付ではほとんど利益が出ない可能性があります。そのため、増税分を吸収するために共益費などの値上げを行わざるを得ない事例が増えているようです」
家賃上げれば借主離脱
商店であれば増税で仕入れ価格が2%上がれば、商品にそのまま転嫁できる。とはいえ、賃料は容易に転嫁できない背景がある。一般社団法人「大家さんの道しるべ」代表理事で税理士・司法書士の渡邊浩慈氏は次のように解説する。
「今回の増税で、大家は単純に実入りが少なくなります。政府は消費増税で影響を受ける管理費などに関して、借主に転嫁するよう通知を出しています。しかし、実際に家賃を値上げするのは容易ではありません。少しでも値上げをすれば借主が離れてしまう可能性が高いです。いずれにしても、賃料の値上げには大家、借主双方の同意は必要になるので、交渉は難航するでしょう。
大家にできることと言えば、空室率を極力下げて収入を常に満額で確保するしかありません。しかし、そのためには所持している物件を魅力的にすべくリフォームや更新を行い、常に一定以上のニーズがある部屋を心掛ける必要があります。いずれにせよ、中小大家さんは非常に厳しい状況なのですが、この問題に関する理解は少なく、『賃料に関する通知』があるたびに“便乗値上げ”だという批判が出てきてしまいます」
今回の消費増税は納税者間の不和を増やす要素ばかりが目立つ。本当にこの制度設計でよかったのか。再検証が必須だ。
(文=編集部)