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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

就活、早くもAI面接が一般化…評価“精度”が劇的に向上、採用コスト&労力も削減

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント
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幕張メッセでの合同説明会(写真:森田直樹/アフロ)

 第一生命が2019年9月に発表した第3回「これからサラリーマン川柳」の選考結果を眺めてみたら、<AI面接するが噛み合わず>という一句が選ばれていました。2020年春就職予定の学生が応募したものです。AIによる面接サービスが世に出てからまだ2年ほどしかたっていないにもかかわらず、学生の間では広く認知され、また選考委員からも話題のキーワードとして取り上げられたことに、注目度の高さがわかります。

 そのニュースを見て、さっそく旧知の仲である株式会社タレントアンドアセスメントの社長・山﨑俊明さんに連絡を取り、話を聞きに行きました。同社のAI面接サービスは日立キャピタル株式会社、株式会社吉野家などの大手企業に導入され、静岡県・浜松市もUIJターン就職の促進に活用されるなど、AI面接領域のトップランナーといえる会社です。また三菱UFJキャピタル株式会社、日本ベンチャーキャピタル株式会社、ニッセイ・キャピタル株式会社などからも多額の出資を受けていることから、AI面接はこれから産業として大きく育っていくサービスとして期待されているといえるでしょう。

 それでも現時点では、選考結果に残った川柳にある通り、世の中的には「AIはまだまだ」という認識を持つ人が多いように思います。私が翻訳や文字起こしなどの実務で使っている実体験からも、「すこぶる便利だけれど、どこか大事なところが欠けている」印象があります。そんな状況で、なぜ面接にAIを活用するのでしょうか。

採用活動の問題点

「AI面接は採用担当者の負担を減らせるだけでなく、人間が行う面接よりも精度の高いデータが収集でき、応募者の資質を見抜くことができるはずだ」という仮説に基づいてAI面接のシステムを開発したと山﨑さんは言います。

 一般的な採用面接には、いくつかの問題点があります。一つは、企業側のマンパワーの制約により一人ひとりに時間をかけられないという点です。

 企業の採用活動は、就職情報誌という紙媒体から2000年頃を境にインターネットの就活サイトに移行しました。その結果一人の学生が多数の企業にエントリーできることになり、その分、採用担当者の作業負担が増加。人気企業であればあるほどエントリーする学生の数は膨大ですが、採用活動にかけられるマンパワーや時間には限りがあります。なるべく多くの学生を面接しようとすればするほど、学生一人あたりの面接時間は短くなり、本来は応募者の資質を見抜くためのものであるはずの面接が、その目的を果たせずに終わることも少なくありません。

 面接時間は一人につきおよそ10分から15分で、長くても30分程度しか取れていないようです。また、面接を行う時間帯も企業の就業時間内が基本であるため、9時から18時頃まで。加えて、応募者のプライバシーが護られる場所を確保する必要もあり、スペースの制約も出てきます。

 もう一つの問題は、評価のばらつきです。採用面接の目的は、応募者の資質を見抜くことです。それは大部分が海面下に隠れている氷山に似ています。海面上に現れている学歴や履歴書の内容だけでは隠れている資質を測ることはできません。長年、採用活動に携わっている人事担当者は「直接会って話をすれば、大体のことはわかる」と言いますが、彼らの経験とカンに頼る面接は相対評価で、そもそも絶対評価ができていません。

 例えば、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんと4人を面接して、1人だけ二次面接に残すと仮定しましょう。担当者は「AさんよりBさんのほうがいい」と判断。次にCさんを面接したら「CさんよりはBさんのほうがいいかな」と思い、さらにDさんを面接したら「CさんよりDさんのほうがいいな」と感じた。しかし、BさんとDさんを比べたとき、面接から時間が経過していることもあり、どちらがよいのか判断がつきません。

 また評価は面接官一人ひとりによって変わる可能性があります。人間による面接は、どうしても先入観や話の流れの中で、聞き漏らしなどが発生し、すべての受験者を公平に判断する、つまり絶対評価をすることがそもそも難しいといえます。

物理的な制約の解放と評価の公平性の向上

 今、企業側の物理的な制約と、人が行うことによる評価の一貫性の欠如という2つの問題点を指摘しました。これらは企業側のがんばりによって解決できる種類の問題ではありません。そこで、AIによってこれらを解決しようという試みが、AI面接というわけです。

 まず、企業側の物理的な制約が取り払われ、面接業務への人件費も面接場所の確保に要する手間や費用も不要になります。

 応募者から見れば、インターネット環境が整っている場所であれば、いつでもどこでも好きな場所で面接を受けることができます。24時間いつでも受けることができるので、わざわざ講義を休んで面接に出かけるという必要はなくなります。また、面接会場に行くための交通費も不要になります。これは特に、地方在住の学生が大都市圏への就職を希望する場合や、大都市圏在住の学生が地方の企業にエントリーする場合、大きなメリットになり得ます。学生は交通費ゼロで国内のすべてのAI面接実施企業にエントリーし、面接を受けることが可能になるわけです。

 さらに学生側のメリットとして面接の日時が重なることがないという点があります。従来の面接会場に足を運ぶ面接では、複数エントリーした企業の面接日時が重なる場合があります。その場合、学生は、どちらの企業の面接を受けるか、選択を迫られます。しかし企業側がAI面接を行っているのであれば、学生が面接の機会を逃すことがなくなります。

 また、評価のばらつきもAI面接なら解決が可能です。面接官の経験やカンに頼るのではなく、一貫した面接の技法を習得するためには、まず企業自身が面接のメソドロジーを確立し、面接官にそれを習得させる必要があります。しかし、それでも面接技術にはばらつきが出てしまうものです。「こういう手法で面接してください」と指導しても、すべての人がその通りにできるわけではありません。エントリー者の数が多い企業の場合、特にその傾向が顕著です。なぜなら、人事部の社員だけでは対応できず、他部署からの応援も必要になるからです。面接という仕事を専門としていない人が対応することで、面接のクオリティーの差という問題が生じます。

 しかし、AI面接ならば毎回同じ品質の水準が行われます。人間と違って何人面接しても疲れることはなく、会社が定めた基準(つまりシステムの設計)に従って、先入観も気分の差もなく、公平に結果を返します。

 さらに、近頃は採用面接を行うことによる事件がたびたび発生しており、それを未然に防止することが企業に求められます。

 例えば大学の先輩社員が就活生に入社を働きかける「リクルーター制度」というものがありますが、近年、この制度を廃止している企業が増えています。その理由の一つは今、男性中心の企業文化からの脱却があります。就業している正社員は男性が多いことから、リクルーターも自ずと男性が多くなります。リクルーター制度の下での「面接」は会社の外という「非公式の場」で行われます。そこではセクシャル・ハラスメントが起こる可能性が排除できず、実際に事件化もしています。

 面接の場においてもハラスメントが起こります。厳しい質問や上から目線の物言いは、応募者にとって圧迫面接やモラル・ハラスメント、パワー・ハラスメントと受け止められることもあります。その類の情報はすぐにネットで拡散してしまうので、思わぬところで「就活ハラスメント企業」のレッテルを貼られてしまうこともあり得ます。

 AI面接なら、こういった不祥事が起こる心配はなく、学生にも安心して受験してもらえます。山﨑さんは当初、スマートフォンに向かって話すということに抵抗がある学生がいるのではないかと心配していましたが、杞憂に終わったと言います。アンケートの結果によると、「難しい顔をした社員の人に面接されるよりは気楽に話せる」と概ね好評のようです。彼らはスマートフォンの音声入力に慣れた世代です。人に向かって話すよりはAIに向かって話すほうがリラックスできるのかもしれないと分析しています。

 また、AI面接が一般化することで、地方創生の可能性が高まるでしょう。

 地方の活性化のカギは人材です。地方企業が素晴らしい商品やサービスを生み出していても、それが広まっていかないのは人材がいないからです。優秀な人材は都市部に集中しているといわれますが、その理由は人がたくさんいるからです。都市部の優秀な人材を地方にまで連れてくることができるのなら、地方企業の本心としては交通費を払ってでも彼らに会いたいはずです。

 少子高齢社会の現在、地元を離れて都市部の大学で学ぶ学生たちに「Uターン就職」を促そうと、各地方自治体もさまざまな策を打ち出しています。多くの学生が帰省する時期に合わせてUターン就職の説明会を開く自治体もあれば、説明会会場まで無料バスを運行したり、交通費を補助したりするところもあります。

 その点、AI面接なら、面接の時間と場所を選ばないため、地方にある企業へのエントリーが容易になり、優秀な人材の大都市圏集中の改善に寄与できる可能性があります。

 コンピュータが面接なんて……などと抵抗感を示す役職者の方も少なくないと思いますが、友達やデートの相手だけでなく、結婚相手までインターネットのマッチングサービスで探す時代です。人の採用に関係する仕事をしている方なら、一度は実際に使って評価する価値があると、私は思います。

(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

山崎将志/ビジネスコンサルタント

山崎将志/ビジネスコンサルタント

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。

2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。


最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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