現金払いからキャッシュレスへと社会が変化している近年、普段の生活で現金を持たず、スマホがあれば事足りるという人も増えているだろう。「脱・現金」の流れは今後も続いていくはず。そして、あと30年もしたらもしかしたら「お金」という概念そのものがなくなっているかもしれない。
■2049年にはあらゆるものの無料化が進む?
そんな推論をしているのが『2049年「お金消滅」』(斉藤賢爾著、中央公論新社刊)だ。
この本では、インターネットと社会の関係を研究する早稲田大学大学院教授の斉藤賢爾氏が、お金の衰退を軸とした2050年頃までに起こりうる社会の変化を推測し、そうした変化の中をどのように生き抜けばいいのかを紹介する。
「お金」が消滅した世界は、社会として成り立つのか。「お金が消滅する」とは、モノやサービスに値段がつかなくなるということ。本当にそんなことがありうるのだろうか。
ただ、身の回りを見てみると、すでに無料で使えているサービスがあることに気づく。たとえば、YouTubeの動画は無料で見ることができる。一方で、広告が入らない定額制のプレミアムサービスも提供されている。このように、基本的には無料でサービスが使えて、もっと便利な機能を使いたいユーザーは課金するというシステムのことを「フリーミアム」という。
このシステムは、有料ユーザーが費用を払っていることで、無料ユーザーはお金を払わずにサービスを使えている状態。「有料のサービスから無料サービスへの間接的な贈与が行われている」といっていい。
このように、デジタル分野では、有料と無料の間のようなサービスがすでに成り立っている。デジタル分野が「無料が当たり前」になるきっかけになるのかもしれない。
また、人間が生きていく上で必要であり、一定のコストを必要としている食料とエネルギーもまた、将来的に無料化に向かうかもしれない。
エネルギーを無料にするために重要なのが、太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーだ。では、食料は無料化できるのか。
農業などの作業のすべてを自動化し、その仕組みを動かすためのエネルギーも無料になれば、食料の無料化にもつながる可能性がある。実際、ポルトガルなどでは、再生可能エネルギーによる電力供給が100%を超える状況ができているという。可能性という点では、再生可能エネルギーによって、エネルギーと食料の無料化もありうるのだ。
サービスもエネルギーも食料も無料になっていき、30年後、お金という概念のない世界になっていたら、どう生きるべきか。今まで人間がしていた仕事も機械化され、自動化が進んでいる。そんな社会で、人間には何が求められるのか。本書では、それは「探求する姿勢」だとしている。さまざまなことが自動化され、お金も消滅している時代は、何かを知りたい、やりたい、という探求に重きを置くことができる社会でもあるのだ。
現金で払うのではなく、電子マネーで払うのが当たり前になりつつあるというのは、実際にお金の在り方の変化を生活の中で体験しているということだ。30年後、本書のテーマである「お金という概念がない」世界が来ているかもしれない。その時自分はどう生きるか。そんな想像をしながら読むと、本書をより楽しめるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。