「特定抗争指定暴力団」への対策
警察当局やメディアなど、一般社会側の認識としても誤算があったのではないか。それは、今年の夏以降、両組織の傘下組織間では抗争事件が相次いでいる中、これ以上何かが起きれば、六代目山口組も神戸山口組も特定抗争指定暴力団に指定される恐れがあるので、お互い派手な抗争はしないはずだという認識だ。だが、そこには2つの誤りがある。
ひとつは、ヤクザ業界全体は、特定抗争指定暴力団とされることをさほど恐れていないということだ。確かに、指定を受けることで組員への活動制限はより厳しくなるが、対策は練られてきた。それは、抗争さえ終われば、指定は解除されるというものだ。実例としても、九州では特定抗争指定暴力団に指定された2つの組織があったが、片側の組織がいったん解散することで、その指定は解除されている。つまり、抗争が激化しても、それにより分裂状態が解消すればいいという考えがあるのだろう。ちなみに、ヤクザ業界で本当に恐れられているのは、特定抗争指定暴力団ではなく、特定危険指定暴力団にされることだ。これは、一般人にまで危害を及ぼす可能性がある組織に適用されるが、指定された組織は極端にシノギなどの活動をしにくくなるものだ。
もうひとつ、すでに実施されている六代目山口総本部などの使用禁止制限などを受け、次こそ特定抗争指定暴力団にされてしまうという危機感があったかのように考えられていた点だ。だが、繰り返しになるが、特定抗争指定暴力団になることは、ヤクザにとって大きな脅威ではない。さらに、事務所の使用制限に始まる、当局による締め付けは、あくまで六代目山口組の中核組織である弘道会と、神戸山口組の中核組織である山健組の間に起こった抗争を対象としている。事実、11月中旬に立て続けに起きた神戸山口組幹部襲撃事件を受けても、特定抗争指定暴力団の指定に向けた動きが始まっていない。そうした状況から鑑みても、今回の古川幹部射殺は「起きるわけがない事件」とは到底いえない状況だったのだ。
六代目山口組がこうした過激な動きを活発化させたのは、髙山清司若頭の出所後からとなるだろう。やはり髙山若頭というカリスマが社会に復帰しただけで、六代目山口組の士気は大きく上がるのだ。今後もこうした流れに拍車がかかる可能性は十分にあり得る。どれだけ時代が変わっても、山口組が分裂している現在の状況は、常に緊急事態であり、何が起きてもおかしくないのだ。
今年の2月、筆者がすでに引退された筆者の親分と阪神尼崎で飲食を共にしたあと、夜が更けた時分にたまたま古川幹部の自宅前を通った。その時にちょうど自宅マンションから、古川幹部が1人で出てきたのだった。その際に古川幹部は、「息子の店に晩飯を食べ行く」となごやかに話しながら、暗がりへと歩いていった。その後ろ姿が、筆者が見た、古川幹部の最期の姿となってしまった
(文=沖田臥竜/作家)