「うまいラーメン店を見極めるにはゴミ出しをチェックしろ」という格言がある。大量の鶏ガラなどが捨ててあれば、スープを一から店で仕込んでいる証拠であり、本当においしいラーメンを提供しているというわけだ。
しかし、最近は店外でスープを仕込んで各店に配送する「セントラルキッチン」方式を採用する店が増えているという。「セントラルキッチンに偏見がある人はラーメンに関しては素人」と語るのは、ラーメン研究家の石山勇人氏だ。
「一蘭」「一風堂」などの有名店も採用
一般的なラーメン店では、店舗ごとに寸胴で豚骨などを炊き込んでスープをつくっていることが多い。この作業は根気が必要な重労働で、暑い厨房で常に寸胴をいじる必要があることから、営業時間外の深夜にスープを炊いている店舗も少なくない。それゆえ、スタッフの技量や時間帯によって味がブレてしまうこともあるという。
ラーメン店におけるセントラルキッチンとは、それらの工程を店外の施設で行い、一気に大量のスープをつくるという方式のことだ。そして、できあがったスープは各店舗に配送される。
また、スープだけでなく製麺やチャーシューなどの具材もセントラルキッチン方式で仕込むことも多く、特に複数店舗を経営するチェーン店では今や常識となっているという。
「セントラルキッチンで仕込んでいる店は多いです。豚骨系や家系はスープを炊くのに時間がかかるので、一風堂や一蘭、壱角家といった大手チェーン店もこの方式を取り入れていると思います。小規模のお店でも、ビルの一室を仕込み用に借りてスープをつくり、そこから配送するという形態も多いです」(石山氏)
セントラルキッチンにすることで、店舗運営の面で大きなメリットがあるという。
「まずは、味の安定でしょうね。各スタッフの技量が関係なくなるため、店舗ごとの味のブレが抑えられます。あとは、ガス代の節約。1日12時間くらい炊き続けるので、より大きな規模で仕込んだほうが経済的です。一方のデメリットは、初期費用と配送ですね。しっかりとした設備を揃えるとしたら1000万円はかかりますし、店舗数が増えるほど配送費もかさんでいきます」(同)
最近では、大手チェーンだけでなく、個性的なこだわり系ラーメン店でもセントラルキッチンを導入する事例が増えているという。
「9月に再出店した『なんでんかんでん』は現在1店舗しかありませんが、導入しています。店舗で仕込むと豚骨のにおいが近所迷惑になってしまうので、セントラルキッチンにしたそうです。有名どころでは、全国に10店舗以上ある『AFURI』、『麺や庄の』『MENSHO TOKYO』など7店舗を展開する『麺庄』グループ、全国5店舗の『ソラノイロ』なども導入していると聞きました。複数店舗を経営するならセントラルキッチンにしたほうが効率は良くなるので、妥当な判断でしょう」(同)
ほかにも『すごい!煮干ラーメン 凪』や『麺屋 音』もセントラルキッチン方式で味のブレをなくし、各店舗での仕込みの負担を少なくしているという。
「スープは炊きたてのほうがうまい」は本当か?
とはいえ、ラーメン好きのなかには「店で仕込んだ炊きたてのスープのほうが、セントラルキッチンでつくられたものよりもおいしい」と言う人も多い。しかし、それは「スープの特性とセントラルキッチンをわかっていない素人の意見」だと石山氏は指摘する。
「スープは炊きたてのほうが良いかどうかは一概には言えません。たとえば、豚骨などの濃厚系スープは炊いたものを一晩寝かせることが多いんです。『ミシュラン』に掲載されるようなあっさり系の名店でも、スープを一晩寝かせるお店がありますね。そのため、セントラルキッチンで炊かれて次の日に配送されてきたとしても、店でつくったスープとほぼ変わらないのです」(同)
炊きたてである必要がない以上、セントラルキッチンでつくられたスープのほうがおいしく仕上がっている可能性もある。ラーメン店の経営コンサルティングも請け負う石山氏は、自身を「セントラルキッチン肯定派」だと語る。
「圧力寸胴の普及により、炊いている時間が3分の1以下でも遜色のないスープができるようになりました。その結果、人件費や燃料代も以前より安く抑えられて、より良い材料を使えるようになってきました。意識の高いラーメン店は経費や店舗数などを考慮して、最適解であるセントラルキッチン方式を導入しています。そういう事情を知れば、『店で炊かないのはダメだ』とは一概に言えないはずです」(同)
今やセントラルキッチンはラーメン業界を支える重要なシステムとして機能している。もしかしたら、「店内炊きたて至上主義」のラーメンマニアのほうが取り残されているのかもしれない。
(文=沼澤典史/清談社)