「ようやく実家に帰ることができた」
中国・武漢に住む知人から、安堵の言葉がWechatで送られてきた。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために強硬な封鎖措置が実施されてきた中国で、封鎖の緩和が始まっている。
まだ外部との通行が制限されている武漢でも、一部の封鎖が解除された。武漢では、1月23日から周辺都市への鉄道やバスなど、すべての公共交通機関を停止。一般人の移動も制限する措置を実施してきた。今回、連絡をくれた知人は、隣接する黄岡市の実家に戻ることもできず、食料品を買い出しに出かける以外は家に閉じこもっているだけの日々を過ごしていた。
中国国内の報道では、武漢市などでは感染の可能性がない市民に対して「グリーンコード」を発行。これを取得した市民は再開予定の公共交通機関への乗車や一部企業での勤務が可能になる予定だ。これはスマホなどで「新冠肺炎疫情防控指揮部」に申請し、同機関の所持する市民の健康データを照会、許可されるとQRコードで発行される。
昨週末の時点では、多くの市民が申請を行っていたためか「何度アクセスしてもビジー状態で、まったく先に進めない」という状態であった。
湖北省ではすでに、医療や公衆衛生に必要な企業や公共事業、食料品や農業などを扱う企業に対して、事業再開を許可することをアナウンス。ほかの企業に関しても3月21日以降に再開が許可される予定としている。
封鎖されている武漢都市圏内での大幅な移動制限の緩和が期待されているところだが、14日に「湖北省交通運輸庁」が行った記者会見で担当者は、「必要な予防策と制御策を講じることを前提に、徐々に回復するだろう」と述べるにとどまり、具体的な言及を避けている。
湖北省内では、早ければ16日からも鉄道やバスが復旧するのではないかという期待もあったが、現時点で再開のアナウンスはなされていない。記者会見では、復旧の判断は路線によって、それぞれ省・郡・県が独自あるいは協議して判断するとしている。それでも、これまで完全に移動を封じられ、家族や親族とも会えない状態だった市民にしてみれば、一歩前進したといえる。
こうなると期待されるのは、封鎖解除がいつになるかということ。中国国内のネットでも3月31日には封鎖が解除されるのではないかと期待する声もある。しかし、具体的な封鎖解除のニュースは今のところ流れていない。
終息ムードも流れ出した中国
3月10日に習近平国家主席が視察に訪れたこともあり、武漢はもとより中国ではコロナウイルス騒動が終息に向かっているという空気が流れ始めている。国営放送である中国中央電視台(CCTV)のニュースでは、変わらずコロナウイルス関連に多くの時間を割いているが、一部地域では警戒レベルを引き下げて、学校を再開することも報じられるようになっている。16日午前0時時点で、中国国内の累計感染者数は8万1062人と前日より27人増。強硬な感染拡大措置が功を奏したのか、感染者数の伸びは次第に鈍化しており、これまで感染者が発見された337都市のうち267都市で、新規感染者がゼロになった。15日には天津でも新たな感染者がゼロになったことが大きく報じられている。
中国のテレビ局では「抗戦疫情(疫病との戦い)」のために病院などの現場や市民を追うドキュメンタリー形式の番組が次々とつくられている。先日、武漢のテレビ局で放送された番組では、封鎖された武漢で市民にニュースを伝えるテレビ局員の奮闘が描かれていた。ここでは国旗を前にスローガンを叫ぶ局員たちの姿も放送され、あらためて中国がコロナウイルスに“戦時体制”で臨んでいることがわかった。
終息に向かっているように見える中国だが、封鎖中に多くの人が収入が途絶えている。冒頭で触れた筆者の知人も「2カ月間、給料がないので貯金を崩している」という。武漢市民の本当の戦いは封鎖が解除されてからになりそうだ。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)