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東京都が明かさない「市中感染者」「感染経路不明者」算出で浮かぶ実態…小池知事の責任問う

文=明石昇二郎/ルポライター
東京都が明かさない「市中感染者」「感染経路不明者」算出で浮かぶ実態…小池知事の責任問うの画像1
小池都知事が緊急会見(写真:つのだよしお/アフロ)

東京で「市中感染」はどれほど増えているのか?

 東京都の小池百合子知事は3月25日水曜日の夜、緊急の記者会見を開き、1400万人の都民に対し、翌日以降の自宅勤務と、週末の外出自粛を唐突に呼びかけた。この会見の模様はNHKが臨時ニュースで生放送し、会見終了直後から都内のスーパーマーケットには多数の買い物客が殺到。買いだめに走る人々でパニックが発生した。

 小池都知事は「感染爆発 重大局面」と書かれたパネルを掲げながら、

オーバーシュート(患者の爆発的急増)を防ぐためには、都民の皆様のご協力が何よりも重要」

「何もしないでこのままの推移が続けばロックダウン(都市の封鎖)を招く」

と、ショッキングな言葉を連発。自宅勤務や週末の外出自粛だけでなく、「夜間の外出も控えて」ほしいとした。

 3月になってからの新型コロナウイルスの新たな感染者数は、20日に11名、21日に7名、22日に2名と推移していたのが、23日に16名、24日に17名と増え始め、25日にはそれまでの最多となる41名を記録。これを踏まえ、同日の知事緊急会見に至っていた。翌26日は47名、27日は40名、28日は63名、29日は68名と、増加傾向は収まっていない。この結果、東京都は我が国最大の「感染拡大地域」となっていた。

 とはいえ、増えている感染者がどのような経緯で感染したのかという「内訳」が肝心である。外出の自粛まで要請するなら、どこで感染したのかがわからない「市中感染」がどれだけ増えているのかという現実を、具体的なデータや例を挙げて示さなければ、人は耳を貸さないし、説得もできない。その結果、外出自粛要請を聞き入れない人も現れる。

 ところで東京都の場合、緊急会見があった25日の41名のうち、院内感染が発生した可能性の高い台東区の永寿(えいじゅ)総合病院の患者や医療従事者が11名を占め、感染が拡大している海外からの帰国者が5名、知人や家族から感染した人の数は不明で、市中感染の恐れが10名以上いるのだという。しかし、報道では「10名以上」であることまでしかわからず、市中感染が増えているのかどうか、これでは判断できない。ちなみに、24日の「感染経路不明者」は9名だった。

 都ではホームページでも新型コロナウイルス関連情報を流しているものの、感染者の「内訳」数までは明らかにしておらず、ここでも「感染経路不明者」の数はわからない。そこで、NHKや新聞各紙の報道等で明らかにされている情報をもとに、3月29日時点までの数字を整理してみることにした。都民にとって現時点で頼れるのは、報道を通じた情報しかないのが現実。どの程度の情報をもとに多くの都民が外出自粛を決めたのかも、同時に検証できるだろう。

 しかし、実際にやってみたところ、まるでジグソーパズルをしているかのような作業となり、読まなければならない記事数も膨大な量に及んでしまった。普通の人は、こんな手間のかかることはきっとやらないと思う。東京都と報道機関に呼び掛けたい。人々が恐怖に苛まれている最中、情報を小出しにするような真似は、金輪際やめてほしい。

かの『恐怖新聞』を彷彿とさせる記事

 感染者の内訳は、

(1)永寿総合病院

(2)新型コロナウイルス感染症が流行している国からの帰国者

(3)知人や家族からの感染

(4)市中感染の恐れ(=感染経路不明)

の4つに大別できる。

 25日の41名の内訳は、永寿総合病院で11名、帰国者が5名、知人や家族からの感染者数は不明、そして市中感染の恐れが「10名以上」である。

 26日の47名の内訳は、永寿総合病院で10名、帰国者は不明、知人や家族からの感染も不明、そして市中感染の恐れが24名である。

 27日の40名の内訳は、永寿総合病院で15名、帰国者は不明、知人や家族から感染した人も不明、そして市中感染の恐れが18名である。

 28日の63名の内訳は、永寿総合病院が29名、海外からの帰国者が3名、知人や家族からの感染が8名、そして市中感染の恐れが23名である。63名の中には、築地にある国立がん研究センター中央病院の看護師2人も含まれているが、どの内訳に含まれるのかまでは公表されていない。

 29日の68名の内訳は、永寿総合病院が27名、海外からの帰国者が6名、知人や家族からの感染が9名、そして市中感染の恐れが26名である。報道を通じて4つの内訳すべてが把握できたのは、28日と29日だけだった。

 この整理をもとに、市中感染の恐れがある人の数を比べてみると、

 24日 9人

 25日 10名以上

 26日 24名

 27日 18名

 28日 23名

 29日 26名

となった。問題は、果たしてこの数字をもとに「感染爆発の重大局面」とまでいえるのかどうか、だろう。

 一方、際立つのは永寿総合病院関連の感染者数のほうである。

 23日 2名

 24日 2名

 25日 11名

 26日 10名

 27日 15名

 28日 29名

 29日 27名

 3月29日までに感染が確認された同病院の関係者は96名にのぼり、このうち入院患者2名が死亡していた。このように、同一カ所で患者が多発することを、感染症専門家や行政、報道機関は「クラスター」(小規模な感染者の集団)と呼んでおり、ここから外に感染者を広げないのが、感染症対策の基本でありイロハ。29日までの東京都全体の感染者数が430名なので、同病院だけで全体の22%を占めている。同病院は紛れもなく「クラスター」であり、間もなく感染者数は100名を超えてしまいそうな勢いで増え続けている。

 恐ろしいのは、この永寿総合病院から慶応大学病院(新宿区)に転院した患者1名が新型コロナウイルスに感染しており、慶応大学病院で同じ病室にいた入院患者3名にも感染を広げていたことだ。この事実は、3月27日に判明していた。イロハが徹底されずクラスターの封じ込めに失敗した最悪の例として、都の関係者は肝に銘じておくべきだ。

 また我が国では、3月26日に米国を出発する航空便から、入国する人への「2週間の自宅待機要請」が始まることになっていた。この行動制限を避けるべく、3月25日前後は“駆け込み帰国”が殺到。多くの人が帰国、あるいは入国していた模様だ。こうした人たちの多くがそれまで滞在していたのは、患者が爆発的に発生している欧米諸国であり、それなりの数の人々が感染していたとしてもなんの不思議もない。問題があるとすれば、感染者の内訳に「帰国者」の数がきちんと含まれていないことのほうだ。

 つまり、3月下旬になって都内の感染者数が急増しているのは、「クラスター」の永寿総合病院の存在と、海外からの帰国者・入国者によるところが大きい――と見たほうが、実態に即しているようである。

 そんななか、3月27日の朝日新聞デジタルに、こんな書き出しの記事が載った。

「東京で26日、新型コロナウイルスの感染者が新たに47人確認された。25日は41人で、今後、感染の拡大が深刻化するおそれがある。同じような大都市のニューヨーク市では13日に49人、14日に48人の新規感染者を確認しており、現在の東京と似たような数字だった。だが、その後は爆発的に増加しており、26日夕の時点で、感染者数は2万3112人と、前日から3千人以上増加。死者も365人に上る」

 筆者が小学生の頃に人気のあった連載マンガ『恐怖新聞』(つのだじろう作。週刊少年チャンピオン掲載。未来の出来事を予測している同新聞の記事を読むごとに、寿命が100日縮まるという設定)を思い出してしまった。2週間後の東京に、ニューヨーク市と同じ運命が待ち受けているかのような書きぶりだ。だが、ニューヨーク市で3月13日に確認されたという肝心の「49人」の内訳は、記事中に示されていない。内訳が定かでない数字同士を単純に比較してしまっていいものだろうか。はなはだ疑問である。

「自粛要請」が解除される日はいつ?

 小出しにされる情報には、こんなものもあった。3月26日の朝、NHKが報じたものだ。

「関係者によりますと、国の対策班は都内の繁華街にある夜間営業中心の飲食店でクラスターと呼ばれる感染者の集団が発生している疑いがあり、今後も感染者の急増が続く可能性があると分析しているということです」

 これだけでは、庶民が「外出自粛」を検討するうえで、何の役にも立たない。「繁華街にある夜間営業中心の飲食店」とは、いったいどんな店のことを指すのか。銀座や赤坂あたりの高級クラブなのか、それとも新宿や池袋あたりのキャバクラのことなのか。そういえば、小池都知事も3月25日の緊急記者会見で、「夜間の外出も控えて」と言っていたが、もしかすると同じ「繁華街にある夜間営業中心の飲食店」を念頭に置いた発言だったのか。感染者が集団発生している「繁華街にある夜間営業中心の飲食店」が何軒かあって、それを国の対策班では把握しているのだろうか。感染を避けるために役立つ重要情報を対策班内にとどめ、公表を控えることに、いったい何の意味があるのか。税金の使い方としてもおかしい。

 悶々としていると、翌3月27日の夕刻、読売新聞オンラインが「銀座や六本木、高級クラブで『夜の街クラスター』発生か」と題する記事を配信した。関心のある向きは元記事をご覧いただくとして、要約すると、国(厚生労働省)のクラスター対策班が調査したところ、複数の感染者が銀座や六本木の高級クラブなどを利用していたことが判明したのだという。同記事中で、国の専門家会議のメンバーである押谷仁・東北大教授は、「人が密集していなくても、1人の従業員が近距離で多数の客に次々に接客するような場合は、クラスターが発生しやすい」とコメントしていた。私たちはこうした記事を待っていたのだ。庶民が今後の行動を考える上で大変参考になる良記事だと思う。

       ※

 説得力のある根拠をもとに、「自宅勤務」や「週末や夜間の外出自粛」を呼びかけるならまだしも、「感染爆発」「重大局面」「都市封鎖」なるショッキングな言葉で脅しながら、とても容易にはできないことを、知事の責任が伴う「命令」ではなく、一方的に都民に「要請」する――。罪のない多くの都民を「不要不急」の買いだめへと走らせたのは、この小池都知事の不用意な「要請」にほかならない。この小池氏のミスリードによって市中感染が発生していたら、取り返しのつかないところだ。

 一方、2月28日に「緊急事態宣言」を出し、北海道民に週末の外出自粛を求めた鈴木直道・北海道知事は、その2日前の26日の臨時会見で道内の一斉休校を道民に呼びかけた際、「政治判断は結果がすべてだ。結果責任は知事が負う」と述べていた。どちらが政治家としての「あるべき姿」だろうか。鈴木道知事は3月19日、「緊急事態宣言」を解除していた。小池都知事が出した「自粛要請」が解除される日は、いつだろう。「責任は自分が取る」とした鈴木北海道知事と、感染するのはまるで自己責任であるかのごとく振る舞う小池都知事。現に当社(ルポルタージュ研究所)のスタッフでさえ、小池知事の「要請」報道を耳にして、出社を一瞬ためらったという。

 一都民として、小池都知事に要請する。都民に「判断」や「決断」を委ねるのであれば、患者個人が特定されてしまう情報を除き、自分たちが集めた情報はすべて公開するよう努めなければならない。即刻実行に移すことを求める。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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