新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、東京都と周辺各県で外出自粛要請が出されていた先週末の29日。菅義偉内閣官房長官は沖縄県那覇市にいた。那覇空港で開かれた第2滑走路の供用開始式典に出席するのが主な目的だったのだが、その前に那覇市中心部の有名な観光名所「国際通り」を視察。地元観光事業者と意見交換などを行い、、その後、事業者らを集めて「V字反転するためには、現在をしのぐことが大事だ」と呼びかけた。そんな菅長官の視察スタイルに地元沖縄からは疑問の声が上がっている。
「マスクなしで土産物屋のおばぁと握手」
視察では菅官房長官はSP(警護担当警察官)複数名と内閣記者会の随行記者を引き連れて、国際通りを視察した。那覇市の経済団体関係者は次のように話す。
「菅さんと政府高官の方々、SPの人たちはマスクをしていませんでした。マスコミ関係者はマスクをしていたと思います。菅さんは店の外にいた土産物屋のおばぁに深々とお辞儀をした後に、握手をして話を聞いていました。あれー、大丈夫かなとびっくりしました。きっと皆さんすごく気を付けていらっしゃるのだとは思いますけれど、東京は(感染者の増加が)ひどいという話を聞いていますし、握手とかマスクなしって大丈夫だったっけと。
県内へ観光に来る人は滅茶苦茶減っています。観光庁や県がまとめた2月の観光客は前年比約24%減で、そのうち外国人旅行者は75%も減りました。地元はとても苦しいです。沖縄まで来ていただいて、話を聞いてもらいとてもありがたいのですが、ちょっと疑問に思いました」
マスクによる新型コロナウイルスの感染予防効果には専門家の間でも諸説あり賛否をめぐって議論になっているが、自分自身が感染していた場合に他人への飛沫感染を防ぐ効果があることは概ね一致した見解だ。感染者が増加している東京から出向くのであれば、マスクの使用は一定のエチケットにも思える。また欧州などでは握手やハグなどを挨拶の際にする習慣が、感染を広げる一因になっているとの指摘もある。
「本来であれば、こちらももっと和やかにお迎えしないといけないのですが、状況が状況での異例の来訪で、そんな雰囲気の視察だったので正直、腰が引けてしまいました」(前出の那覇市経済団体関係者)
「今日から観光政策の反転攻勢ののろしを上げる」?
そもそも菅官房長官は、なぜこのタイミングで那覇市に直接、赴かねばならなかったのか。毎日新聞インターネット版29日付の記事『菅氏異例の沖縄入り 那覇空港第2滑走路供用開始 「反転攻勢に」もコロナで国際線ゼロ』で、「危機管理を担当する官房長官が東京を離れるのは異例だが、地元関係者との面会に同席した赤羽一嘉国土交通相は『官房長官が東京を離れることに批判も多いが、(第2滑走路は)沖縄の皆さんの夢だ。今日から観光政策の反転攻勢ののろしを上げようということだ』と意義を強調した」などと説明されているが、今一つピンとこない。
沖縄県の地元紙関係者は次のようにぼやく。
「確かに第2滑走路は26日から供用開始という多難な船出になりました。観光客減少の現場の視察も、通常の災害時なら悪いことではないとは思います。ただ、わざわざ地元関係者を集めて出てきたのが、『反転攻勢』とか戦意高揚の威勢の良いスローガンだけでがっかりしました。テレビ会議とかメッセージ映像でいいんじゃないでしょうか。即効性のある補償の有無などをみんな聞きたかったと思います」
現場と政府の感覚の遠さがまた、明らかになってしまったのかもしれない。
(文=編集部)