東京オリンピックの聖火が3月20日、ギリシャから特別輸送機で日本に到着した。本来なら、大会組織委員会の森喜朗会長ほか、聖火リレー公式アンバサダーの吉田沙保里氏や野村忠宏氏らがギリシャに向かい聖火を受け取るはずだったが、WHO(世界保健機関)によりパンデミックが宣言された新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、派遣が見送られた。
吉田、野村の両氏は、宮城県の航空自衛隊松島基地で開かれた聖火到着の歓迎式典には姿を見せたものの、式典の出席者は最小限に絞られ、寂しいものとなった。
東京五輪の先行きは不透明を極めている。IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は17日に開いた各国際競技団体との臨時電話会議で、中止や延期の可能性に関する発言はしなかった。しかし、19日には米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで「複数のシナリオ」を検討していることに言及。「中止は議題にない」とはしながらも延期の可能性を初めて示唆した。
「予定通り」と言い続ける日本政府内でも、もちろん別のシナリオは検討されている。中止は安倍晋三首相の責任論につながりかねないので絶対に避けたい。「完全なかたちでの開催を目指したい」という安倍首相の発言が意味するのは、予定通りが無理ならば延期だ。
ただし、そうなった際に安倍首相が恐れている最悪のシナリオは「石破茂首相で五輪開催」なのだという。米テレビ局が莫大な放映権料を支払っていることを考えると、延期したとしても米国のプロスポーツの日程に影響を与えない夏が有力。1年か2年の延期が浮上しているが、1年後の夏は7月に日本で水泳の世界選手権、8月に米国で陸上の世界選手権が予定されているため、2年延期論が現実味を帯びる。
そうなると五輪は2022年夏。その前に自民党総裁選と衆議院の総選挙が行われることになる。自民党総裁の任期は21年9月まで。衆議院議員の任期は同年10月21日で満了だ。自民党のベテラン議員は安倍首相の懸念をこう解説する。
「新型コロナウイルスによる感染が終息するまでに1年半はかかるという見方がある。終息が長引き、衆議院の解散が打てないまま任期満了での選挙になった場合、先に行われる自民党総裁選で選ばれた新総裁(新首相)が解散して総選挙を行うことになるかもしれない。『新総裁イコール総選挙の顔』だから、当然、国民的に人気の高い人がいい。このところの世論調査では、次の首相には石破氏がトップ。選挙に弱い中堅・若手を中心に派閥の論理を超えた石破総裁待望論が強まる可能性がある」
総裁任期1年延長論も
首相官邸内で安倍首相と菅義偉官房長官の関係が微妙になっているという噂もくすぶる。安倍首相が想定する「ポスト安倍」の後継は岸田文雄政調会長だとされ、派閥の論理でいけば宏池会会長の岸田氏が有力なのは間違いない。だが、「世論調査で人気のない岸田氏では選挙に勝てない、と二階俊博幹事長―菅官房長官ラインが石破氏を担いで動くこともあり得る」(自民党のベテラン議員)という。
ちなみに、直近の世論調査(毎日新聞3月14、15日)では次の首相にふさわしい人は石破氏が21%で、前回の19%から3ポイント増。岸田氏はわずか3%で前回と変わらずだった。
「そもそも安倍首相は、自分が招致を勝ち獲った五輪だから、自分の手でやりたいと思っている。大嫌いな石破氏が首相となって五輪開催なんてもってのほかで、絶対に許せない。そんな恐れが出てくれば、新型コロナの終息とは関係なく、総裁選より前に衆議院を解散して総選挙に打って出るだろう。もしくは、22年夏の五輪まで総裁任期を特例で1年延長させてでも、自分の手で五輪をやるだろう」(安倍首相周辺)
3月18日、安倍首相は岸田氏と2人で会食した。ポスト安倍に向け奮起を促したのか。それとも、岸田氏で石破氏に勝てるのかどうか見定めたのか。