マスク不足の謎を徹底検証…過去10年で供給量15倍?「顔のパンツ」利用を禁止すべき
マスクがない!
新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染が広がるとともに、ドラッグストア、コンビニエンスストア、スーパー、どこに行ってもマスクが品切れで手に入らなくなった。これに対して、日本政府は法律に基づきマスクの買い占めやインターネットでの転売を禁止することなどを盛り込んだ総合対策を取りまとめている。
この非常事態に、シャープは、液晶ディスプレイを生産している三重工場のクリーンルームで1日50万枚(月産1500万枚)のマスクを製造すると発表し、筆者を驚かせた(人々の役に立つのだからよいことだと思うけれど)。
しかし、なぜ、これほどマスクが足りないのだろうか? 転売目的で買いだめしている不届き者がいたのは事実だと思うが、それにしても、この足りなさは尋常ではない。
そこで本稿では、まず、通常レベルのマスクの供給量、マスクの国産と輸入の割合に関する定量データを示す。次に、日本人が異常なほど大量にマスクを消費している実態を明らかにする。その背景には、「だてマスク」もしくは「顔のパンツ」としてマスクを使用している人が多数いることを指摘する。その上で、コロナ対策のためには、本来の目的以外でのマスク着用を禁止するべきだとする結論を述べる。
マスク供給量
図1に、一般社団法人・日本衛生材料工業連合会が公開している2009年~2018年までの、家庭用、医療用、産業用マスク枚数の推移を示す。
2009年に新型インフルエンザが流行して、一時的に年間44.6億枚とマスクの需要が急増した。しかし、2010年に6.7億枚、2011年に8.4億枚に大きく減少した。恐らく、通常なら10億枚弱もあれば、マスクは十分足りるということなのだろう。
ところが、2012年以降にマスクの供給量が飛躍的に増大していき、2015年以降は2009年の水準を超え、2018年には55.4億枚に達する。このような膨大な枚数のマスクをどのように供給しているかというと、図2に示すように、2012年以降は約80%を輸入に頼っている。最近の報道では、輸入元は中国であるという。
さらに、日本では自治体や企業が、非常時に備えてマスクを備蓄している(図3)。その備蓄量は、2013年と2014年は14億枚以上と多かったが、2016~2018年は8~9億枚程度となっている。
以下では、家庭用マスクに焦点を当てて、分析を行うことにする。
なぜ家庭用マスク枚数が急増するのか?
図4に、2009~2018年における家庭用マスクの供給量と備蓄量の推移を示す。2009年に新型インフルエンザが流行して、一時的にマスク枚数が急増したことは前節で述べた。それ以降の家庭用マスクは、2010年が3億枚、2011年が5.4億枚となっている。ところが、2012年以降、マスク枚数が飛躍的に増大していき、2018年には42.8億枚が供給された。2015年以降は毎年約2億枚ずつ増えていることから、2019年は約44億枚、2020年には約46億枚になっていると推測される。
一体なぜ、これほどマスク供給量が増えるのだろうか?
真っ先に頭に浮かぶのは、花粉症対策のためにマスクが必要になっているのかもしれないということである。そこで、東京都のスギとヒノキ合計の花粉飛散数の推移を調べてみた(図5)。東京都では、過去10年平均で、スギとヒノキの合計の花粉が1シーズン当り5532個/平方cm飛ぶことがわかっている。
この平均値を大きく超えているのは、2011年(1万5112個)、2013年(9851個)、2018年(1万3260個)の3回である。この花粉の飛散数の傾向と、マスク枚数が2012年から急増していることの間には相関関係がない。要するに、マスク数が増大していることは、花粉の飛散数からは説明できない。
では、日本人は一体、なぜこんなに大量のマスクを消費するのか?
「だてマスク」のせい?
本来マスクは、たとえばコロナに感染した人が他人にうつさないようにするため、あるいは他人からコロナをうつされないようにするために着用する(ただし、通常のマスクでは0.1μmのコロナウイルスを完全には防御できない)。
しかし、知人らに聞いてみると、近年は「だてマスク」として着用する人が圧倒的に多いという。そんなものかと思ってネットニュースを調べてみると、確かにそのような記事が多数見つかる。その記事の一つを、五百田達成著『「だてマスク」が流行する理由。「顔のパンツ」でプライバシーを守る。』(Yahoo! ニュース個人、2015年1月24日付)から引用する。
「ところが最近はその用途・目的がさらに多様化。女性の間では『マスクをするだけで保湿効果があって肌がうるおう』『すっぴんを隠せる』『紫外線対策』など本来の目的プラスアルファの効果も狙っている様子。美容アイテムとしても注目が集まっています」
「このような『風邪も引いてないのにマスクをつける』というのは、『目が悪くないのにメガネをかける』のと同じ。いわば『だてマスク』とも呼ぶべき習慣です」
「実際、マスクを着用してみると感じるのは『口元が守られている』という安心感。逆に長時間つけていると、内臓の一部である『口』をおおっぴらに見せていたのが恥ずかしい気持ちにさえ、なってくるから不思議です。ここまでくると、もはやマスクではなく『顔のパンツ』ともいうべき。文明人には欠かせないアイテム、上品なたしなみに思えてきます(笑)」(原文ママ)
「顔のパンツ」とは、驚きを通り越し、笑う気にもなれない。
マスク不足対策には「顔のパンツ」防止を!
図1および図4のグラフで、2012年以降にマスク供給量がうなぎ登りに増加しているのは、「だてマスク」もしくは「顔のパンツ」のせいだった。これが平時であれば、マスク業界も潤って「めでたし、めでたし」だったかもしれない。しかし、今回のような深刻なコロナ騒動が生きている今は、「顔のパンツ」を看過することができない。
現在、コロナ対策のために、真に必要なマスク枚数はどのくらいになるだろうか? 日本の人口は、約1億2600万人である。小中高は臨時休校となり、多くの企業でテレワークが普及し、大規模イベントは軒並み自粛となっている。
それでも、マスクをして外出しなければならない人たちがいる。その人数を、日本人口の約半分の6000万人としてみよう。1人1日1枚のマスクを使うとすると、6000万人に対して1カ月で18億枚必要になる。図4から日本には、最低でも6億枚のマスクの備蓄があると思われる。さらに、平時では日本国内で全供給量の20%のマスクを生産しており、最近の報道では24時間フル稼働で、通常の2~3倍を増産している。
2018年の42.8億枚をベースに計算してみると、日本の平時での年間生産量は8億5600万枚、3倍増産したとすると25億6800万枚、1カ月あたりでは2億1400万枚生産できることになる。これに備蓄量6億枚を加えると、最低でも直近の1カ月に8億1400万枚供給可能になる。
18億枚には足りないが、その半分近くは確保できる。これを6000万人に配布すれば、1か月1人当たり13.6枚になり、2日に1枚は新品のマスクを使えることになる。
ただし、そのためには、コロナが終息するまでの間、真に必要な人にだけマスクを供給できるように、転売禁止に加えて、「顔のパンツ」としての使用を禁止する必要がある。これはもはや、笑い事では済まされない。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)