コロナ外出自粛やテレワークでDV増加の危険…すでに欧米では深刻化、過度なストレスで
新型コロナウイルスの感染拡大によって外出禁止措置が広がっているアメリカで、DV(家庭内暴力)の相談が増えているという報告がある。世界の死者のおよそ7割が集中しているヨーロッパでもDVの増加が深刻な問題になっていると報じられた。
その背景には、長時間自宅にこもらなければならないストレスがあると考えられる。何しろ、最近の調査によれば、アメリカでは新型コロナのせいですでに職を失った、あるいは勤め先の休業で働けない状態にあると答えた人の割合は全体の23%に上ったのだから。
しかも、感染拡大を抑制するためには、人の動きと社会活動を制限し、接触自体を減らす「ソーシャル・ディスタンシング」を続けるしかないが、これは必然的に経済活動休止を伴う。そのため、収入激減や失業への不安にさいなまれる。経営者であれば、倒産するのではないかという不安で夜も眠れないかもしれない。
日本でもDV増加の恐れ
このように欧米では外出制限措置によるストレスと経済的不安によってDVが増加しているわけだが、同様の問題は日本でも起こりうると思う。
現時点ですでに、夫が勤務先の休業やテレワークで家にいるようになった家庭で、妻の不満の声を聞くことが少なくない。
「家にいるくせに、家事も育児も手伝ってくれない。買い出しにも行ってくれない」
「これまでは夫の食事は週末だけ作ればよかったのに、ずっと家にいるようになったので、三食作らなければならず、しんどい」
もちろん、夫のほうにも言い分はあるだろう。「家にいるからといって遊んでいるわけではなく、仕事をしているのに、用事を言いつけられる」「妻はずっと家にいるのだから、飯くらい作るのは当たり前なのに、不機嫌な顔をされる」といった声を聞く。
問題は、夫婦が互いにストレスをため込んでいることだ。ストレス発散のために外出したくても、外出自粛の要請が出ている現状では何となく気が引ける。第一、休業や休館になっているところも少なくなく、出かける先がない。
ストレスがたまると、どうしても怒りが生まれる。とくに、これまで真面目に働いてきた男性ほど「なぜこんな目に遭わなければならないのか、自分は何も悪いことはしてないのに」と怒りを覚える可能性が高い。
この怒りをどこにぶつければいいのか? そもそもの原因は、新型コロナウイルスだが、ウイルスに怒りをぶつけるわけにはいかない。また、発生地の中国にも、対応が後手後手に回っている日本政府にも、いくら腹が立っても怒りを直接ぶつけるわけにはいかない。
だから、怒りの矛先の向きを変え、身近にいる者にぶつけて鬱憤晴らしをするしかない。これは精神分析で「置き換え」と呼ばれるメカニズムだが、この「置き換え」によって今後日本の多くの家庭でDVが増えると考えられる。
長期化するほどDVが増加
DV夫には、しばしば強い所有意識と特権意識が認められる。所有意識が強いと、妻を自分の所有物とみなしがちで、好きなように扱ってもいいという理屈から「殴ろうが、蹴ろうが、俺の勝手。他人にとやかく言われる筋合いはない」と思い込む。また、特権意識が強いと、自分は夫で一家の主なのだから、自分の要求が家庭で最優先されるべきだし、少々のことは許されるはずと信じて疑わない。
一般に、こういうタイプにDVが多い。ところが、1995年の阪神淡路大震災と2011年の東日本大震災の後に被災地でDVが深刻化した際には、所有意識や特権意識が必ずしも強いわけではない男性によるDVも増えた。これは、避難生活のストレスが大きかったうえ、経済的不安も強かったからだと考えられる。
感染者がとくに東京都で急増している事態を受け、日本医師会は3月30日に記者会見を開き、「緊急事態宣言を出していただき、それに基づいて対応する時期ではないか」と提案した。
もし「緊急事態宣言」が出れば、外出や営業などの自粛要請はさらに厳しくなるだろう。当然、自宅にこもらなければならないストレスも経済的不安も強くなるはずだ。しかも、長期戦を覚悟する必要がありそうだが、長期化するほどDVが増えるのではないかと危惧せずにはいられない。
(文=片田珠美/精神科医)