4月12日午前0時44分、新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が発令された深夜の首都圏で、直下型の特徴である「縦揺れ」の地震が発生した。震源地は茨城県南部、マグニチュードは5.1、最大震度は4だった(東京都の震度は2~3)。幸いにして大きな被害はなかったものの、新型コロナウイルスに怯える首都圏の住民は「さらに大地震が起きたらどうなるのか」と肝を冷やしたのではないだろうか。
この地震についての地震専門家のコメントは伝わってきていないが、「今年上半期に首都圏で大規模な直下型地震が発生する可能性がある」とする角田史雄埼玉大学名誉教授の警告(昨年6月25日付コラムで紹介)が筆者の頭をよぎった。大方の地震学者が信奉している「プレートテクトニクス説」に疑問を感じている筆者が参考にしているのは、角田氏が提唱する「熱移送説」である。熱移送説をかいつまんで説明すると、以下のとおりである。
(1)熱移送説で主役を務めるのは、「プレートの移動」ではなく「熱エネルギーの伝達」である。その大本のエネルギーは、地球の地核から高温の熱の通り道に沿って地球の表層に運ばれ、表層を移動する先々で火山や地震の活動を起こす。
(2)熱エネルギーの表層での出口の一つは南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)に存在し、南太平洋から出てきた熱エネルギーはPJ(インドネシアからフィリピンに向かい台湾を経由して九州へ)とMJ(フィリピンから伊豆諸島を経由して首都圏へ)という2つのルートで日本に到達する。
(3)熱エネルギーが伝わると熱のたまり場では噴火が起き、地盤に「問題」がある地点では地震が発生する。熱エネルギーの速度が一定であることから、火山の噴火から地震発生の予兆を捉えることが原理的に可能である。
首都圏でマグニチュード4~5クラスの地震が多発
以上が熱移送説の概略だが、九州に達するPJルートでは2015年5月の鹿児島県口永良部島の噴火に続き、2018年6月に大阪府北部を震源とするマグニチュード6.1(最大震度6弱)の地震が発生している。
首都圏に達するMJルートについては、2013年から西之島(東京の南約1000km、MJルート上に位置する)の噴火活動が断続的に続いている。西之島の噴火活動をもたらしている熱エネルギーは、伊豆諸島の八丈島(東京の南約300kmに位置する)などを経由して、首都圏に継続的に流入している。
首都圏に到達した熱エネルギーは2018年7月、千葉県東方沖でマグニチュード6.0(最大震度5弱)の地震を発生させたが、震源が深かったことなどが幸いして首都圏に大きな被害をもたらさなかった。その後も首都圏では茨城県や千葉県東方沖などでマグニチュード4~5クラスの地震が多発しているが、角田氏が首都圏に大きな被害をもたらすと懸念しているのは、伊豆半島近辺を震源とする地震である。この地域で発生する地震の震源が浅いことから、大きな被害をもたらすことが多いという特徴があるからである。
1923年9月に発生した関東大震災(マグニチュード7.9)の震源はあまり知られていないが、当該地域との説が有力である。その後1930年に北伊豆地震(マグニチュード7.3)、1978年には伊豆半島近海地震(マグニチュード7.0)の地震が発生している。
伊豆大島の地盤的な変化が確認
気がかりなのは、首都圏に次々と熱エネルギーが流入しているのにもかかわらず、茨城県や千葉県東方沖に比べ、伊豆半島近辺で発生する地震の数が少ないことである。このことは伊豆半島近辺に到達したエネルギーが、中規模の地震発生というかたちで放出されるのではなく、溜まり続けている可能性が高いことを意味する。
角田氏は最近「伊豆半島近辺に発生する地震の前兆である、伊豆大島の地盤的な変化が確認されている」としており、伊豆半島近辺で大規模な地震発生が近づいているかもしれないのである。角田氏は「伊豆半島近辺や長野県南部でマグニチュード6後半の地震が発生する可能性がある」と予測している。
伊豆半島近辺で大規模な地震が発生すれば、この地域を通過する東海道新幹線や東名高速道路などで甚大な被害が発生するリスクが高い。関東大震災の際には横浜や鎌倉で大津波が発生したが、当該地域で津波対策が講じられているのだろうか。筆者は寡聞にして知らない。
通常の場合でさえ、災害救助に必要な自衛隊、消防、警察、医療スタッフなどのマンパワーが限られているのに、現在は新型コロナウイルスのパンデミックという異常事態である。
大規模地震の発生を予測することで世の中をいたずらに騒がせるつもりは毛頭ないが、「備えあれば憂いなし」との願いから、あえて本拙稿を発出する次第である。