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片田珠美「精神科女医のたわごと」

安倍首相が星野源コラボ投稿、恐ろしいほどの危機感の欠如…国民の苦境への“無理解”露呈

文=片田珠美/精神科医
安倍首相が星野源コラボ投稿、恐ろしいほどの危機感の欠如…国民の苦境への無理解露呈の画像1
安倍晋三首相の公式Twitterより

 安倍晋三首相が4月12日、シンガー・ソングライターで俳優の星野源さんの曲「うちで踊ろう」の動画に自身が自宅でくつろぐ姿を“コラボ”として公式ツイッターにアップした。この投稿に対して、「休業補償もなく、休業要請された人はこんなに心にゆとりのある時間が持てるでしょうか?」「窮地に立たされてる国民の気持ちを逆撫でするような投稿はやめていただきたい」といった批判が殺到している。

 これは、当然の反応だと思う。緊急事態宣言を受けて休業を余儀なくされたが、補償がなく、今月の家賃や光熱費をどう工面しようと思い悩んでいる人、あるいは勤務先の売り上げが激減して、リストラの不安にさいなまれ、失業するのでないかと危惧している人からすれば、安倍首相の神経が理解できないだろう。

 今回の“コラボ”投稿もそうだが、コロナ禍への安倍首相の一連の対応を見ていると、次の5つの特徴が認められる。

(1)危機感の乏しさ

(2)現実否認

(3)現状認識の甘さ

(4)自覚の欠如

(5)想像力の欠如

 まず、信じられないほど危機感が乏しい。これは、目の前の現実をきちんと見ようとしないからであり、必然的に現状認識が甘くなる。その結果、対応がすべて後手に回っている。また、国家の指導者としての自覚が欠如しており、何をしなければならないかも、何をしてはいけないかもわかっていない。

 最も深刻なのは想像力の欠如であり、自分の言動が国民の反感と怒りをかき立てることを想像できない。厄介なことに、悪気があるわけではなく、むしろ国民のためになると思っているふしがあり、かなりズレている。それが一番怖い。

 これらの5つの特徴を併せ持つ人を、“診断つけたがり症候群” の私は、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という名言を残したマリー・アントワネットにちなんで「アントワネット症候群」と呼んでいる。安倍首相は典型的な 「アントワネット症候群」のように見えるが、妻の昭恵夫人も同様であり、この2人は「似た者夫婦」もしくは「割れ鍋にとじ蓋」の夫婦といえる。

 ルイ16世とマリー・アントワネットの夫婦も、2人とも5つの特徴を併せ持っていた。そのせいで国民の反感と怒りを買い、結局ギロチンにかけられた。安倍首相と昭恵夫人も、国民の気持ちを逆撫でするようなことを繰り返していると、さすがに断頭台に送られることはないにせよ、いずれ権力の座から引きずりおろされるのではないかと懸念する。

へつらい者の害毒という「ペスト」に感染した安倍首相

 もう1つ私が懸念するのは、この“コラボ”投稿を止める者が側近のなかに誰もいなかったことである。おそらく側近はイエスマンか忖度の達人ばかりで、安倍首相の自尊心を傷つけるようなことは誰も言わないのだろう。

 ルネサンス期のイタリアの政治思想家マキアヴェッリは、「側近に誰を選ぶか」の重要性を強調し、「側近の選択の良否は、人の上に立つ者にとって重要このうえもないことになるのである」と述べている。

 マキアヴェッリによれば、側近の人選については常に「へつらいおもねる者たちから、どのようにすれば逃れられるか」を考えなければならないという。なぜかといえば、「人間というものは誰でも、自尊心をくすぐられるのは気分の良いもので、それでつい、この『ペスト』に感染してしまう」からだ。

 安倍首相は、新型コロナウイルスに感染する前に、へつらい者の害毒という「ペスト」に全身を侵されてしまっているように見える。それが「アントワネット症候群」を悪化させ、結果的に国民の反感と怒りに拍車をかけているのではないだろうか。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献
塩野七生『マキアヴェッリ語録』新潮文庫

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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