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新型コロナ、「土足」で室内がウイルス汚染か…クルーズ船、トイレ床から高い頻度で検出

文=明石昇二郎/ルポライター
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新型ウイルス肺炎が世界で流行 カシマスタジアムでPCR検査(写真:UPI/アフロ)

なぜ日本では「感染爆発」が起きていないのか

 一日当たりの新型コロナウイルス「COVID-19」(コビッド・ナインティーン)の新規感染者数(報告数)が、ようやく下がり始めている。3月下旬以降、右肩上がりで増え続け、ピークは4月12日に記録された714人。それが約1カ月後の5月8日には82人にまで激減している。

 我が国最大の“感染者多発地帯”である東京都を見ても、ピークが4月17日の201人だったのに対し、5月8日は39人と、全国と同じように大きく数を減らしている。東京都だけで新規感染者数のほぼ半数を占めているのは気になるところだが、小池百合子・東京都知事が危惧していた「オーバーシュート」(感染爆発)は当面、避けられたようにも見える。

 日本もまた、感染爆発を避けられず、米国ニューヨークやイタリアの後を追う――と予言する報道が、3月中旬以降の日本国内で相次いでいた。国の衛生状態も医療のレベルも、米国やイタリアとさほど変わりはないから、そう睨んだのだろう。だが、今のところそうはなっていない。

 米国ジョンズ・ホプキンス大学のウエブサイトによると、5月10日午後9時30分現在、世界全体の新型コロナウイルス感染者数は400万人を突破し、404万7915人(死者数27万9705人。感染者の約7%)となっている。

 国別では、1位の米国が130万9541人(死者数7万8794人。感染者の約6%)で、2位のスペインが22万3578人(死者数2万6478人。感染者の約12%)、3位のイタリアが21万8268人(死者数3万395人。感染者の約14%)であるのに対し、日本は1万5663人(死者数607人。感染者の約4%)で、世界ランキングでは32位となっている。同日(5月10日)夜にNHKが報じた国内の同感染者数は1万5842人、死者数は632人だったので、タイムラグなどを考慮すれば同大学サイトの信頼性はかなり高いことがわかるだろう。

 では、なぜ日本と欧米各国では、新型コロナウイルス感染者数にこれほどまでの差があるのだろうか。スペインやイタリアとは1桁、米国とは2桁も違うのである。日本のPCR検査数の低さをその理由として挙げている学者やジャーナリストもいる。もちろんそれも理由のひとつなのだろうが、そのことだけですべての説明がつくのかというと、どうも釈然としない。

 そこで、筆者の事務所(ルポルタージュ研究所)なりに、その理由を考えてみることにした。つまり、日本と欧米各国には、感染症対策を考えるうえでどんな違いがあったのか――ということである。

マスクの効能を否定した専門家と専門家よりマスクを信じた市民

 私たちが特に注目したのは、「生活習慣の違い」だった。

【1】マスクの着用

 欧州で感染拡大が確認された3月中旬は、日本では花粉症流行の真っただなか。外出の際はマスクが欠かせない人も多い。というか、春に花粉症と無縁で過ごせる人のほうが珍しいくらいだ。しかも、花粉症は「スギ花粉症」や「ヒノキ花粉症」だけでなく、中には桜の花粉に反応してしまう人もいる。すなわち日本の春は「マスクの季節」であり、例年マスクが最も売れるシーズンでもある。

 一方、欧米人のマスク観は「マスクは病人がするもの」。マスクをして出勤する日本人の姿は、嘲笑の対象でさえあった。それが新型コロナウイルスの登場で、今やこぞってマスクをし始めている。米国ロサンゼルス市のように、食料品店の従業員と客の双方にマスクやスカーフの着用を義務づけたところもある。もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためだ。

 感染症の専門家がマスク着用を推奨したからではない。WHO(世界保健機関)の事務局長や危機対応統括担当は、マスクの感染予防効果を今なお頑として認めていない。記者会見でも彼らのマスク姿を見たことはない。4月に入りWHOは、「自らが感染していると気づいていない人が他の人にうつさないためにはマスクの使用が役に立つこともある」との見解を出し、マスクの効能をしぶしぶ認めたものの、相変わらずマスクに感染予防の根拠はないと言い続けている。

 ご記憶の方も多いと思うが、実は日本の感染症専門家らも、2月や3月頃のテレビニュースで「マスクで感染は防げない」と繰り返し語っていた。中には、「マスクを口から外して顎に下げると、顎に付いたウイルスがマスクの内側に付いてしまうので、絶対に避ける」などと講釈を垂れていた人もいた。

 だが、現在市販されている不織布マスクの大半は顎までしっかり覆う形のものであり、解説として的外れと言うほかない。こうした注意が必要なマスクがあるとすれば、市販のものより一回り小さめで顎まできちんと覆えない「アベノマスク」くらいのものだろう。

 ともあれ、大半の日本人は感染症専門家の言うことを聞かず、マスクを着用し続けた。そのことは同時に、一般庶民は専門家ばかりかテレビ報道もまったく信用しなかった――ということを意味している。かえってそれが功を奏し、日本での感染爆発を防いでいる可能性は十二分にありそうだ。専門家の見立てと庶民の肌感覚のどちらに軍配が上がるのか、見ものである。あと半年か1年もすれば、白黒ハッキリするだろう。

 ついでにもうひとつ、これまでどの専門家も指摘していないと思われることを指摘しておきたい。

「土足文化」がパンデミックを招く?

【2】土足

 家の中まで土足で上がるか否か――という生活習慣の違いである。集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号で、感染者が滞在していた33の客室を国立感染所研究所(感染研)が調べたところ、21の客室で新型コロナウイルスの遺伝子が検出され、なかでも、客室内にあるユニットバスのトイレの床からウイルスの遺伝子が、高い頻度で検出されたのだという。

 新型コロナウイルスは、感染者の便からも検出されることが明らかになっている。水洗便所で水を流すたび、飛沫が床を汚すのか、それとも違う理由で床が汚染されるのかは今後の検証を待つほかないが、感染者が床まで汚染してしまうという事実は、感染を防ぐうえで大変重要な発見であり、役に立つ知見だろう。

 日本の家庭では、家に帰るとまず玄関で靴を脱ぐ。一方、欧米の家庭では土足のまま家の中に入り、トイレも靴を履いたまま使用する。この生活習慣の違いが、感染拡大の差を生み出している疑いがある――と、私たちは考えた。何らかの理由で汚染された土壌の上を知らずに歩き、靴の裏が汚染されたまま帰宅して、自宅内を汚染してしまう――という可能性も考えられる。感染が世界中に拡大している現在、決して空想次元の話ではあるまい。「土足」が本人の感染ばかりか、家庭内感染を招く原因となっている恐れもありそうだ。感染症専門家の皆さんに、ぜひ早急に検証していただきたいと思う。

 これまで私たちは「手」や「手が触れるもの」「手洗い」ばかりに注意を払い、「床」や「土足」に対してあまりにも無頓着だったのではないか――。そう考えながら、9年前の東京電力・福島第一原発事故を取材した際、体験したあるエピソードを思い出した。

 原発事故発生から約1カ月後の2011年5月、筆者は知人の弁護士らとともに福島県内の現地取材を敢行した。参加メンバーはそれぞれ積算線量計を持参し、一日ごとの被曝線量を記録していたのだが、同じ地域を揃って訪問していたにもかかわらず、3日間で3マイクロシーベルトも被曝線量に差が出ていたメンバーがいた。そのメンバーは、「宿泊しているホテルの部屋が怪しい」と言う。

 そこで、筆者が持参していたロシア製の簡易線量測定器RADEX(RD1703)を貸し、部屋の中の線量を調べてもらったところ、ベッドカバーから放たれる毎時0.2~0.3マイクロシーベルトほどの放射線を確認。これが余計な“放射線源”とみて間違いなかった。その部屋に泊まったメンバーにとっては大変不運なことに、その部屋を前に使っていた客が、汚れた土足をベッドカバーに乗せたか、それとも体そのものが放射能で相当汚れた人だったことが原因と思われた。私たちが宿泊していたビジネスホテルは当時、海外からの取材スタッフや研究者、技術者らでごった返していた。その中に、「土足」に無頓着な人が少しくらいいたとしても、何ら不思議ではなかった。

         ※

 日本国内で豚コレラや牛の口蹄疫が発生した際、白装束に身を固めた消毒スタッフが農場を訪れ、周囲を徹底的に消毒する光景をテレビニュースなどで見た覚えがあるだろう。彼らは、農場に出入りする人の靴の裏や、車のタイヤまで徹底的に消毒し、病原となったウイルスを根絶する。家畜の病気でこれほど「足元」に気を使っているのだから、人のパンデミック(世界規模の感染症大流行)でも同様かそれ以上の配慮がなされるべきだと、私たちは考える。

 日本が感染爆発に至っていないのは、単なる偶然の産物であるわけがない。まだわかっていないだけで、ちゃんとした理由が絶対にあるのだ。その真の理由を突き止めることができれば、間違いなくパンデミックの終息にも貢献できるだろう。

「外出自粛」は、100年前の「感染症対策」

 日本を感染爆発の危機から救ったのは、4月7日に発令された「緊急事態宣言」であると考える人もいるだろう。だがそれは、市民と企業が多大な犠牲を払い、仕事や学業、外食、観光旅行等々、さまざまな活動を停止したゆえのことである。その最大の功労者は一人ひとりの国民であり、市民なのであって、同宣言を発令した政治家が偉いわけでも威張れるわけでもない。

 そもそも外出自粛や都市封鎖という手段は、公衆衛生政策も医療技術も大したものを持ち合わせていなかった100年も昔の、大正時代の「感染症対策」なのである。実際、100年前の1918年に始まったインフルエンザのパンデミック「スペイン風邪」の際の対策は、「患者の隔離、接触者の行動制限、個人衛生、消毒と集会の延期といったありきたりの方法に頼るしかありませんでした」との記録もある。現在の対策とさほど変わりがないことに、愕然とさせられる。

 そんな前時代的な対策しか、有効策として打ち出すことのできない感染症専門家や政治家とは、なんと非力な存在なのだろう。100年前から進歩していないのだから、あまりにも情けなく、頼りにならない。進歩がないのではなく、単にパンデミックに備えていなかったのであれば、さらにたちが悪い。

 せめて、日本が感染爆発に至っていない理由だけでも解明し、新型コロナウイルスの終息に貢献していただきたいと願う。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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