新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、さまざまな飲食店が営業規模の縮小や休業を決断せざるを得なかったこの春。著しく業績を悪化させる飲食店も多いなか、大手ハンバーガーチェーン店のマクドナルドは、3月の既存店売上高は前年同月比0.1%減と微減にとどめ、4月の既存店売上高は前年同月比6.5%増となり、コロナ禍で逆に業績をアップさせたのだ。
また、4月は20日から全国約1910店舗がイートインを中止したこともあり、既存店客数が前年同月比18.9%減となっているが、客単価は31.4%増と大幅に増加している。そのため、コロナ禍で家族利用が増えたことがマクドナルドの好調の理由ではないかと分析されているのだ。実際ケンタッキーフライドチキンも、今年の3、4月の既存店売上高が前年比から増加しているが、家族利用の需要が増えたためとみられている。
マクドナルドが業績アップさせた要因や、好調な飲食チェーン店の共通項とはいったいなんだろうか。フードアナリストの重盛高雄氏に話を聞いた。
業績アップ最大の理由はアプリなどの事前のインフラ整備
まず、マクドナルドがコロナ禍で業績アップさせた要因についての重盛氏の見立てを聞いた。
「客単価の増加は単純に家族利用が増えただけでなく、マックデリバリーが1500円以上でなければ利用できないという制度上の理由もあるでしょう。1人分で1500円以上にするのは難しいため、複数人分頼むこととなり、必然的に客単価が上昇するというわけです。
また、営業時間の短縮やイートインの中止といった会社としての対応を素早く発表したことや、衛生管理の取り組みも好調の要因として考えられます。特に衛生管理については2014年~15年に大きな問題が発生したあと、公式ホームページで衛生管理についての情報発信を丹念に行うようにするなど、信頼回復のための取り組みが評価されて、消費者に選ばれているのではないでしょうか」
そして、マクドナルド好調の最大の要因は、これまでのインフラ整備が時世とマッチしたことにあるという。
「マクドナルドはスマートフォンから商品の注文ができる、モバイルオーダーを導入しています。注文のために並ぶことがないため、従業員やほかの利用客との接触の機会を軽減できると注目されたのですが、このシステムは新型コロナウイルス感染症の流行以前からマクドナルドが取り組んでいた施策でした。
モバイルオーダーアプリは都心での実証実験後、昨年春から静岡県などでスタートし、今年の1月から全国展開を開始。さらに、4月からはマクドナルドの公式アプリにモバイルオーダー機能を実装し、専用アプリでなくともモバイルオーダーが可能になり、より簡便化されました。マックデリバリーもそうですが、マクドナルドはもともとインフラの整備に注力しており、それがこの時世にハマったことが業績アップにつながったのではないでしょうか」
コストのかけどころがウィズコロナ時代の勝敗を分ける
デリバリーサービスやインターネットを利用したオーダーサービスを以前から行っていたのはマクドナルドだけでなく、3月・4月と好調を維持していたケンタッキーフライドチキンもまた同様だ。
ほかの飲食チェーン店に関してもイートインにこだわらず、テイクアウトやデリバリーを販売戦略の柱に据えていた店が、コロナ禍では好調であったと重盛氏は言う。
「感染対策ということで急にテイクアウトなどのサービスを始めたお店よりも、前々から自社でのサービスの用意や、Uber Eats(ウーバーイーツ)や出前館との協業によって、インフラ構築に取り組んでいたお店のほうが売上は低迷しませんでした。
特に自前の配送システムをつくっているチェーン店に関しては、自社の商品を美味しい状態で届けるという責任のためにホスピタリティが高いため、信頼感や安心感があるということで支持を受けています。
イートインを主としていた飲食チェーン店以外では、きちんとしたデリバリーの仕組みや、日常的に目につくLINEでの割引クーポンの配信といった強みを持っていたピザチェーン店も非常に好調でしたね」
今回の騒動のなかで好調であった飲食チェーン店は、もともとテイクアウトやデリバリーのサービス、およびそれらの利便性向上に努めていたということであれば、やはり今後もサービスやその充実化を継続していくのだろうか。
「従来通りの外食産業の状態には戻らないとも考えられているので、今回でデリバリーやテイクアウトの売上などが伸びたところは、新型コロナウイルス感染症が収束したあとも、取り組みを続けていくのではないでしょうか。
また、ファミリーレストランのガストのようにテイクアウト専用のテーブルを用意し、イートインでの利用客と導線を分けるような試みをしているチェーン店もあるので、そういったところがこれからも新しい施策を打っていくのかどうかも注目されます。
イートインが主体の飲食チェーン店がテイクアウトやデリバリーにも力を入れることは、消費者が店を利用するにあたっての選択肢を広げることでもあります。各チェーン店がどこにコストをかけ、また逆にどこのコストを減らしていくのかという部分が、消費者にとってメリットのある形で展開していけば、これからも外食産業は愛される存在、頼りになる存在として続いていくのではないかと思います」
偶然から成った結果論という側面はあるのかもしれないが、コロナ禍以前からインフラ構築にかけた労力の差が、飲食チェーン店の明暗を分けたようだ。ウィズコロナ、アフターコロナと呼ばれる時代でも、それまでにどこにコストをかけて事業を展開してきたのかが重要になるのではないだろうか。そして未来の外食産業の覇者は、すでに次の一手を打っているに違いない。
(文=佐久間翔大/A4studio)