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今井亮一「知らないと損する裁判傍聴記」

もっとも衝撃的だった“盗撮ハンター”の裁判傍聴記…盗撮犯を恐喝して荒稼ぎする人々

文=今井亮一/ジャーナリスト
もっとも衝撃的だった“盗撮ハンター”の裁判傍聴記…盗撮犯を恐喝して荒稼ぎする人々の画像1
東京地方裁判所(「Wikipedia」より)

『「盗撮ハンター」手口で110万円恐喝 容疑で男女逮捕「毎週やった」』と8月3日、産経新聞が報じた。34歳の男が「池袋の商業施設」で、内妻(35歳)にミニスカートを着用させ、盗撮した20代の男性に対し「俺の女なんだけど」などと声をかけ、110万円を脅し取ったという。

「盗撮ハンター」とは盗撮犯を狙う恐喝犯のことだ。その刑事裁判を私が初めて傍聴したのは8年ほど前だ。以来、何件か傍聴してきた。総務省と警視庁の統計から、スマートフォン(以下、スマホ)の保有率と盗撮の検挙件数を重ねてみよう。

    保有率 検挙件数
2010年 09.7% 201件
2011年 29.3% 263件
2012年 49.5% 484件
2013年 62.6% 633件

 盗撮はスマホでのみ行われるわけではないが、スマホの爆発的な普及とともに盗撮は激増している。2018年の保有率は79.2%、検挙は774件だ。私が東京地裁で傍聴してきた盗撮ハンターの裁判のうち、最も衝撃的だったケースをご報告しよう。

盗撮の常習犯だった盗撮ハンター

 被告人は41歳、無職。公訴事実は2件あった。1件の現場は新宿歌舞伎町。盗撮犯を捜し、女性のスカートの下にトートバッグを差し入れている男性(38歳)を見つけ、「なに盗撮してんだよ。俺の親戚に産経新聞の記者がいる。大変なことになるぞ。サラ金で借りてこい」などと言い、現金30万円を脅し取った。

 もう1件は、秋葉原駅でスカート内にショルダーバッグを差し入れている男性(49歳)を見つけ、「俺の彼女を盗撮しただろ。初犯なら30万か50万円だな、彼女は相当怒ってるから50万円だな、奥さんいるんだろ」などと言い、現金約36万円を脅し取った。

 だいぶ複数回やっていたようだ。なぜそんなことを始めたのか。半年ほど前、電車内で痴漢男を捕まえ、駅の事務所へ連れて行こうとした。しかし被害女性は忙しかったのか、警察にかかわりたくない事情があったのか、痴漢男の鞄を叩いて去った。痴漢男は「お金をやるから見逃して」と言い、そこから始まったのだと被告人は述べた。

 被告人の携帯電話には、ある男との間で「恐喝の成果や意気込みを伝えるメール」が大量にあった。検察官が次々と読み上げた。以下、メモしきれなかった部分を「…」でつなぐ。

「今回は見逃してと言ってたけど狩りました…エスカレーターで鞄の中に…バカ野郎です…乗り込む前のタクシーの前で狩りました…昨日は新宿アルタで…今年中に1億達成…あと4000万、月300万貯金、夏なら700万ぐらいイキますよ…今年は本業犠牲にしても…でかいイベントには魚が集まりますので…来月もガンガン攻めますよ…」

 どういうことなのか、検察官が攻めた。被告人は「自分は友人がいなくて、××とは気が合うので、気を引きたくて、虚偽のメールを…」と答えた。1億円は「虚偽」としても、互いに競い合って盗撮犯を狩っていたことは事実らしい。その××も同時期に東京地裁の別の法廷で裁かれた。

 不思議なのは、入れ食いのように盗撮犯を見つけているらしいことだ。その点について、検察官が被告人の調書をこう読み上げた。

「盗撮している男の心理が読める。盗撮している男の動きがわかり、すぐ見つけられる」

 なぜ心理が読めるのか。なんと被告人は自身も盗撮の常習犯なのだった。盗撮で罰金刑を2回受け、次は執行猶予付き懲役刑を受け、その猶予中にまた盗撮で捕まり懲役の実刑に。刑務所を出てから10年近く、父親の会社で月給45~50万円で働いていたが、また盗撮で捕まった。これは罰金刑で済み、しかし会社はクビに。以来無職だったようだ。

 本件の逮捕もきっかけは自身の盗撮だった。東京モーターショーで盗撮で捕まり、当然ながらスマホを調べられた。女性の下半身の画像が多数あった。ほかに男性の身分証明書の画像が見つかった。不審に思った警察官がその身分証明書の男性に連絡し、そうして本件が発覚したのである。

 求刑は懲役2年。服役前科があるとはいえ10年近く前のことだし、盗撮と恐喝は法律上は異種の犯罪だ。2人の被害男性に対しそれぞれ50万円を支払って示談したこともあり、判決は懲役2年、保護観察付き執行猶予4年だった。この被告人と「成果や意気込みを伝えるメール」をやり取りしていた××は、懲役1年6月、執行猶予3年だった。

カメラを差し向けること自体が犯罪

 この事件、自身が盗撮で捕まらなければ、盗撮ハンターの犯行はもっと続いていたはず。私が最近傍聴した裁判の盗撮ハンターは、不動産関係の仕事で月に50~100万円を得ていながら、独立資金を早くつくりたくて余暇に盗撮ハンターを始めたという。

「(盗撮被害にあった)女の子の母親が150万円で示談する」と言っている、とふっかけたが、盗撮した男性は現金も預金もなかった。そこで、クレジットカードで高級腕時計や新幹線の回数券を買わせ、換金させるべく、いっしょに店を回った。途中、被害者は隙をみて逃げだし、交番へ駆け込んだ。

 冒頭の産経新聞が報じた事件も、110万円で逮捕されている。盗撮犯をひとり捕まえたらとことん搾り取ろうとするから捕まるのかもしれない。30~50万円ずつ稼ぎ、社会的地位があり失うものが大きいカモからは少しに多めに引っ張る、そうやって稼ぎ続けている盗撮ハンターは、じつはいっぱいいるのではないか。

 盗撮は、東京の場合だと「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反」として裁かれる。適用されるのは第5条第1項第2号だ。

<次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)>

「盗撮しても撮影データを急いで消せば大丈夫」と考える人がいるかもしれないが、スカート内へカメラを差し向けること、女子トイレや更衣室などにカメラを設置すること、それ自体が犯罪になるのだ。警察に捕まるか、盗撮ハンターに狩られるか、盗撮はリスクがダブルの犯罪といえる。

今井亮一/交通ジャーナリスト

今井亮一/交通ジャーナリスト

交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。ちなみに駐車監視員資格者証を取得している。
今井亮一の交通違反バカ一代!

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