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ポストコロナの「新たなアイドルビジネス」を探して【後編】

白石麻衣、渡辺麻友“ノースキャンダル”称揚と古川未鈴“結婚”祝福の間にある溝を越えて

文=ガリバー/アイドル評論家
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白石麻衣、渡辺麻友“ノースキャンダル”称揚と古川未鈴“結婚”祝福の間にある溝を越えての画像1
2017年に講談社より刊行された白石麻衣のセカンド写真集『パスポート』。白石麻衣は、“ノースキャンダル”のまま乃木坂46を卒業することとなる。

【前編】「秋元康の“嘘”、祝福される古川未鈴の結婚…アイドル「恋愛禁止」ルールはなぜ生まれたか」では、アイドルの歴史、現在のアイドルシーンの実態、そして法的観点などから、「恋愛禁止」ルールのありようを考察してきた。それが古臭い規範であり、法的にも問題があり、その上でアイドル自身がそうしたルールを乗り越えようとし、ファンの側もそれを受容しようとしていることがわかった。しかしながら、なおも女性アイドルカルチャー全般が、その呪縛から逃れられていないのはなぜなのだろうか。

 乃木坂46からの卒業を発表した白石麻衣や、芸能界引退を表明した元AKB48渡辺麻友らがその功績を「ノースキャンダル」と括られ称賛される状況と、アイドルグループとしての活動を続けながら結婚を表明したNegiccoのメンバー2名やでんぱ組.incの古川未鈴が祝福される状況とが併存するというこの状態は、どう説明がされるのだろうか。この両者の間にある大きな溝は、なんなのか。

 それはひとえに、ポスト「恋愛禁止」の新たな価値観が活かされるような、新たなビジネスモデルがいまだ確立されていないからだろう。長年、ビジネスとしてのアイドルを力強く駆動させてきたのは、まぎれもなく、「疑似恋愛」をベースにしたアイドル消費の強固な構造だ。

 興行やメディア出演の収入だけで活動を継続させていけるアイドルなど、ごくわずかである。ゆえに、握手券などによるメンバーとの直接交流を“特典”として、CDその他の商品を購入させることが、アイドルビジネスにとっては非常に重要であり続けている。同一商品を大量購入するような中毒的な消費にファンを向かわせる欲望装置のコアにあるのは、疑似恋愛の対象としてのアイドルである。

白石麻衣、渡辺麻友“ノースキャンダル”称揚と古川未鈴“結婚”祝福の間にある溝を越えての画像2
2020年7月に日本加除出版より刊行された深井剛志・姫乃たま・西島大介による共著『地下アイドルの法律相談』

「疑似恋愛」を徹底的に利用してきた“握手会商法”

【前編】でも紹介した、深井剛志・姫乃たま・西島大介著『地下アイドルの法律相談』(2020年7月、日本加除出版株式会社)において、過去に地下アイドルとしての経験も持つライターの姫乃たまはこう述べる。

「アイドルが恋人の存在を公にしても、デメリットはあるものの、特にメリットはない」
「普通の女の子でもアイドルになれるいまの時代において、普通の女の子とアイドルの決定的な違いが『恋愛禁止』かどうかになっている」(P86〜 第4章 地下アイドルと禁止事項のはなし)

 そう、端的にいえば、「恋愛禁止は儲かる」のだ。

 さらに姫乃が語る以下のような指摘は痛烈である。曰く、少なくとも現状、「恋愛禁止」こそが、アイドルをアイドルたらしめているのだ。歌やダンスやビジュアル等の技術的ないし美的要素、あるいは巷間流布する「アイドルとは愛されること」等の抽象的な文言は、アイドルの本質ではないのだ、と。

 同じく【前編】でも紹介した、太田省一著『平成アイドル水滸伝〜宮沢りえから欅坂46まで〜』(2020年2月、双葉社)において、著者は以下のように語る。

「『恋愛禁止』ルールは、疑似恋愛の対象としての昭和的なアイドル像がいわば形式的に残ったもの」(P14〜 女性アイドルにとって平成とはどんな時代だったのか?)

 しかし、まさにその形骸化したフォーマットが現在のアイドルビジネスにおいても非常に都合がよいからこそ、今なおそれは、強固に残存しているのではないか。

 建前では、アイドルの恋愛禁止は古いだの時代錯誤だのとみなが思いながら、それでも本音では、自分だけの存在でいてほしい、誰のものにもなってほしくないと願う。あるいはそこまでの“独占欲”はないにしろ、握手会やSNSにおけるコミュニケーションについては独占的なものであってほしい、その関係性は自分だけ得ている特別なものであってほしいと願う。

 人間のそうした根源的な想いを、いわゆる“握手会商法”は、徹底的に利用してきた。ゆえに、アイドルにファンではない他者との“本当の恋愛”が発覚すると、「裏切られた」とファンは思う。あるいはアイドル側も、「裏切ってしまった」と考える。世間の常識では、恋愛禁止などただの建前のはずなのに。

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