ビジネスジャーナル > 企業ニュース > GoToイートに税金2003億円
NEW
垣田達哉「もうダマされない」

誰も仕組みを知らないGoToイートに税金2003億円投入…事業委託先に469億円支払い

文=垣田達哉/消費者問題研究所代表
誰も仕組みを知らないGoToイートに税金2003億円投入…事業委託先に469億円支払いの画像1
農林水産省 HP」より

 6日のテレビ番組『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)に久しぶりに出演した。私が出演したコーナーのテーマは「Go To イート キャンペーン」である。『タックル』の初出演は2000年だったと思うが、まだ野坂昭如さんが出演されていた時だった。それ以来数多く出させていただいているが、今回は4年ぶりに声がかかった。

『タックル』には台本はあるが、台本通りに進行されることはない。こんな質問が予定されているという大まかな中身だが、コーナーゲストとしては、その質問に対してどんな答えをしようかと事前に考えておくのだ。私もA4用紙2枚に話したいことをびっしりメモして臨んだ。しかし、当然ながら「えっ! ここでその話」といったトークの連続で、平然と座っているように見えるかもしれないが、ゲストとしては、どこで何を言ったらいいのか頭をフル回転させている。見ている人は、そんなに違和感がないと思われるだろうが、それは、ひとえに阿川佐和子さんの絶妙な進行能力とスタッフの編集力のたまものだ。

 一つのコーナーは15分前後、今回は阿川さん含め出演者は8人なので、一人当たり平均2分弱しか話す時間はない。収録は2倍近くかけているので、発言の半分はカットされる。「何を話すべきか」は本番でとっさの判断で決めるしかない。さらに、トークによってアドリブで口を挟むことも必要になる。

1万円換算で2500円付加

 では、今回の『タックル』で話せたことは何か。実際の放送を見ると、私が話した内容はおおむね次の通りだ。

Q:「感染予防対策が確認できない、ということについてどう思うか」

A:「保健所の人はコロナ対策で忙しいのに、飲食店のチェックなどできません」

・この質問は、スタッフとの打ち合わせでは、私に振られる予定ではなかったので、とっさに思っていることを答えた。農水省の職員や商工会議所の担当者が訪問調査をしても、衛生管理の専門外の人では、お墨付きを与えるわけにはいかないだろう。

Q:「給付金の予算が少ないとはどういうことか」

A:「食事券は、給付金が767億円なので、一人当たり0.24枚しか手に入れられない」

・これは、用意していったメモにはないが、だいたい覚えていたので、話すかどうかはその場で判断した。計算式を詳しく説明すると次のようになる。

・給付金の総額が767億円、1万円券換算で2500円付加されるので、767億円÷2500円=3068万枚発行される。国民一人当たり0.24枚しか手に入れることができない。一度に2万円購入できるので、3068万枚÷2=1534万人で売り切れ。

・オンライン飲食予約は、一人1000円換算で767億円÷1000円=7670万回付与、一人平均0.6回、10%の人しか参加しなかったとして一人平均6回。ただし、複数のサイトで予約しても、同一人物と特定できないだろう。

Q:「その他、問題点は何か」

A:「一番問題なのは、ほとんどの消費者、飲食店がキャンペーンの内容をよく知らないことだ」

・国からのPRもほとんどされていないし、9月からスタートしようとしているのに、どこの飲食店が利用できるかも決まっていない。

Q:「景気回復になるのか」

A:「Go To トラベルと違って、0が+1になるわけではない。Go To イートをしても、一人一日3食が4食になるわけではないので、今、外食している人が食事券を使って食べるだけで客は増えない」

・これについては、石原伸晃さんと岸博幸さんは、外食に行かなかった人が行くので、客は増えるという意見。

 もう一つ、「オンライン予約の問題点」については、「飲食店は、予約と予約確認とポイント付与とレジでの決済の同期を取らなければならない」ということだ。店側は「いつ、誰が、何人で来るか」を把握し、来店した時にサイト側に確認証明をすることで、サイト側で客にポイントを付与する。店側は、2回目以降ポイントで精算されるので、誰がポイントをどれだけ使用したのか把握する必要がある。

長い行列ができる懸念

 では、私はどんなことが言いたかったのか。

 テーマは「景気回復なるか?“Go To イート”で現場は大混乱!?」である。トーク中に話題になる(質問される)可能性がある小テーマが4つあったので、そのすべてに回答を用意した。ただ実際に主に放送されたのは「Go To イート キャンペーンの問題点は何か。景気は回復するのか」だったので、その質問に対して私が用意した原稿(メモ)を、文末に掲載したので参考にしていただきたい。メモはあくまで覚書であり、トーク時間はかなり短いので、すべてを話したわけではない。実際にはメモの10分の1程度だろう。ただ、何を話したかすべてを記憶しているわけではないので、どこがカットされたかはお伝えできない。

 メモだけでは何を言いたいのかよくわからないと思うので、少し補足したい。

 食事券で一番心配なことは、販売所で行列が長くならないかということだ。たとえ多くの消費者が並ばないとしても、転売目的の人が多く並ぶ可能性がある。金券ショップが2万円の食事券を2万2000円で買い取ってくれれば、1回並ぶことで2000円の利益となる。

 もう一つは、飲食店が事務局に持ち込む食事券だ。飲食店は2万5000円分の食事券を事務局に送れば、2万5000円振り込まれる。ところがこの食事券、たとえば「かつしかプレミアム付商品券事務局」のHPに次のような記載がある。

「商品券の取り扱いルール(事業者向け)」

・自ら商品券を購入し、自店舗で使用されたかのように偽り換金する行為等の不正行為は堅く禁ずる。

 つまり、飲食店は「お客が使ったかどうかわからない食事券であっても全額換金できる」ということだ。例えば、飲食店の人が並んで2万円で購入した食事券を、そのまま事務局に送れば2万5000円が振り込まれる。一度使った食事券の流用を防ぐため、店側は使用済みスタンプを押すなどするだろうが、事務局側では本当に使用済みかどうかの判断はできないだろう。

 いずれも偽造食事券ではないので、最大2万円で5000円しか利益がない。そこまでする人がいるだろうかとは思うが、国が全国規模で行うキャンペーンなので不安はある。転売目的の人が多くなれば行列は長くなる。販売する側は、ソーシャルディスタンスとして1m間隔で消費者を並ばせるだろうから、100人で100m、1000人並ぶと1kmになる。

 愛媛県は、県内約100カ所の窓口で販売される。愛媛県の人口は約133万人。20%の人が100カ所に並ぶと、1販売所に2660人。10%の人でも1330人が並ぶことになる。特に愛媛方式は、1セット5000円(500円券×10枚)の食事券が4000円で購入できる。最小単位が500円なので、おつりを考えると使い勝手が良い。便利で(お得で)あるがゆえに行列が長くなる可能性がある。

 一方、香川県は往復はがきによる抽選(合計4回)で42万枚(額面52.5億円)を販売すると公表したが、重複応募をチェックできるだろうか。1世帯(同じ住所)から複数応募があった場合、勤務先の住所から応募があった場合等、同一人物が複数応募する可能性がある。買い占め防止策はとっているのだろうか。香川方式は1セット1万円(1000券×10枚+500円券×5枚)なので、おつりが出ないことを考えると愛媛方式より使い勝手が悪い。

 オンライン飲食予約も並ぶ必要はないが、購入すれば来年3月末まで使用できる食事券と違って、付与するポイントがなくなった時点で終了となる。全国から誰でも予約ができるので、大量の予約が集中する可能性がある。サイト側はパンクしないだろうか。具体的な仕組みはわからないが、混乱は必至のような気がしてならない。

 いずれにしても、行列は「販売所が近くて、行列が苦にならない人」に有利であり、オンライン飲食予約は「インターネットが得意な人」に有利である。今回のキャンペーンは、どちらも不公平であることは歴然としている。定額給付金の口座に1万円振り込んでくれたほうが消費者はありがたい。

 Go To イートの総予算は2003億円だが、食事券とオンラインポイントがそれぞれ767億円で計1534億円、委託費が469億円である。総予算の約23%のお金が委託事業者に流れる。食事券事業では約200億円が委託費だ。47都道府県に均等に分配しても、各都道府県の事業者に約4.3億円が支給される。いったい誰が得をするのだろう。

【スタジオに持ち込んだメモの抜粋】

 一番の問題は、ほとんどの消費者がGo To イートの内容について理解していないこと。食事券の場合、一部ネット販売もできるが、ほとんどが窓口での対面販売になる。

 一つの販売所で1日2000万円、1000人分が販売されるとすると、1000人並べば終わり。ショッピングセンターで100人並べば100mの行列。転売目的の人が何度も並ぶ。食事券は金券ショップが買う可能性がある。

 もう一つは飲食店も買うかもしれない。買い占めようと100人が10回並べばそれで終わり。買い占めを防止しようとすると、敗売窓口で本人確認をしなければならなくなる。そうなると行列を待つ時間が長くなる。

 オンライン予約で付加されるポイントは、一人当たり0.6回、10人に1人しか利用しなかったとしても一人当たり6回、6000円。食事券と違って5000ポイント一度にもらえるものではない。来店して初めて500ポイントか1000ポイントもらえる。ポイントもなくなり次第終了なので早く使った者勝ち。一人、月に1回の予約しかできないと規制しても、複数のサイト、携帯やパソコンから予約すればいくらでも予約できる。大手の飲食店が参加すれば1~2カ月で終了する可能性がある。

 私は逆に、大手は参加しないと思うので、中小飲食店だと、ランチ時に多くのお客を店に入れるわけにいかないので、予約しても抽選で外れる人が続出するのではないか。オンライン予約に慣れた人でなければ無理。だからすごく不公平。

 店側も、お客の数は増えない。一人3食や4食に増えるわけではない。いつも来てくれる人が、現金ではなく食事券やポイントで支払うだけ。

 Go Toに限らないが、末端の事業者や消費者よりも、政策の委託を受けた事業者が一番儲かる仕組みになっている。Go To イートも委託事業者の予算は469億円(給付金は1534億円)。税金の使い方が、特定の事業者に恩恵を与えることが目的になっているので、一部の企業の一時的な景気回復にしかならない。国民一人ひとりにはわずかなバラマキだが、委託企業にとっては莫大な利益が転がり込む。それよりも、定額給付金や持続化給付金のほうが、国民ははるかにうれしい。一度振り込んでいるから、2回目は簡単。

 食の業界にとっては、年末年始が1年間で最も稼ぎ時。年末年始に売上が半減状態では、商売の継続は難しい。経済は徐々に回復傾向にあるが、まだ終息には時間がかかるだろう。客を来店させる政策よりも、終息までのつなぎ資金を、末端の事業者に給付するほうが有効。

(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

1953年岐阜市生まれ。77年慶應義塾大学商学部卒業。食品問題のプロフェッショナル。放射能汚染、中国食品、O157、鳥インフルエンザ問題などの食の安全や、食育、食品表示問題の第一人者として、テレビ、新聞、雑誌、講演などで活躍する。『ビートたけしのTVタックル』『世界一受けたい授業』『クローズアップ現代』など、テレビでもおなじみの食の安全の探求者。新刊『面白いほどよくわかる「食品表示」』(商業界)、『選ぶならこっち!』(WAVE出版)、『買ってはいけない4~7』(金曜日)など著書多数。

誰も仕組みを知らないGoToイートに税金2003億円投入…事業委託先に469億円支払いのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!