今年8月末では、各地で百貨店の閉店が相次いだ。そごう徳島店、西武大津店、中合福島店など、特に県庁所在地にてその存在がなくなることが多く報道され、何かのシンボル、人々が集う姿、豊かさの象徴が失われてゆく寂しさも伝わってくる。
「ならば、もう少し利用してくれていれば」というのは百貨店業界関係者の意見だろうが、アパレルブランドの撤退も利用機会減少になり、前年対比で15%程度の売上減少が3年以上続くと、「新たな退店候補か?」と言われ始める。これは、継続して各店の売上を集計してきた筆者の独自視点でもある。
閉店判断した百貨店の品揃えは“いろいろ揃っているが買うものがない(=同じものは家にある)”という状態になっているのが現実だろうが、議論すべきは閉店後だ。中心市街地の再開発も絡み、建て替えて別の姿になるケースもあるが、まだまだ活用可能な場合は、施設内の運営を担う会社が名乗り出て、新しいカタチでのテナント編成に臨み、集客を開始することになる。その場合、次のようなスタイルが取られる。
・旧百貨店内に出店していたブランドの一部継続+大きな面積を埋められる店舗を入れる
・公共施設を含んだシティセンター機能を重視する
・観光や宿泊に関係するテナントを含めた“コト商品”を重視する
・アウトレット業態を絡め、日常使い+アルファを狙う
今回はアウトレット業態を絡めた例として、千葉県松戸市の「KITE MITE MATSUDO(キテミテマツド)」の取材で見えたことを紹介したい。
伊勢丹松戸店が40年を超える営業を経て閉店したのが2018年3月。その後、約1年間のフロア改装を経て、キテミテマツドとして新しいスタートを切ったのは19年4月であった。伊勢丹時代の既存顧客に加え、共働き世帯や子育て世代が日常的に利用できるショッピングセンターとして、松戸市の新たなランドマークを目指すというのが当初に発表された方向性であった(※1)。
この2階に今年7月、総合ファッションメーカーであるワールドが運営するNEXTDOORが開店した。全体開業から1年遅れであり、何か理由があったか?と感じられるが、これが開店してキテミテの集客力が高まっているだろう。扱いブランド構成では、いわゆる百貨店ブランドはなく、郊外のショッピングモールに入店しているブランドが入り、多くの商品は50%オフから70%オフ、一部のスペシャルプライスでは80%オフもあった。
筆者は8月末の土曜日午後に現地を訪れたが、レディス、メンズ、キッズ、雑貨と品揃え幅が広く、かつ気軽に買える値段帯であることから、家族連れやカップル、若い女性同士などが多く訪れていた。
また、B級品(汚れ、ほつれ、箱潰れなど)をよりプライスダウンするコーナーや、商品整理のための空間、お客様とワークショップを行うための空間もある。ワンフロアの面積も広いため、いろいろな試みも可能というわけだ。
従来であれば、乗降客が1日30万人を超える駅近くの“第3のショッピングセンター”では、アパレルに関する店舗が必要とされ、JR系やセブン&アイ系の商業施設との差別化として“定価販売”を基本とするケースも多かった。しかし、コロナ禍の下で、なんらかのフック要素、キテミテマツドの場合は“サブアーバンアウトレット”とも呼べる要素でもなければ、どんなに駅に近くてもわざわざ客が行かないとの読みで、NEXTDOORの導入に至ったとも読み取れる。
百貨店のアウトレット業態導入は、青森県の中三弘前店の「マチナカラック」から始まっており(※2)、今後はいくつかの条件(顧客ニーズ、商圏状況、店舗面積、家賃など)次第で、こうした形態が増えてくると考えられる。
こうした未来動向へ細かく対応できるアパレルブランドには勝機があるといえるだろう。「アウトレットだから値段勝負」という発想では従来と何も変わらない。来店客の購買特性、例えば「女性客もメンズの商品を買うのか?」「お得感の感じ方をどう演出するか?」といったことを常に考えて、現場で実行できるかが問われている。
ところで、キテミテマツド館内でアパレル商品を扱うのは、このNEXTDOORとデイリーウェアのPaseos(パシオス)、買取ショップのREXTなどだが、もう一つ、ミセス向けブランドのレリアンが、伊勢丹お得意様サロンと共に1F入口付近で、百貨店時代からの営業を継続している(場所自体は移転)。顧客との強い結びつきが継続すれば生き残りが可能であることを示しており、頼れる存在感は健在で、他の業態との共存も苦ではなさそうだ。
今後も続くと見られる百貨店跡地活用において、“アパレルがあばれる”ためにどんな対応が必要なのか。挑戦した成果が出ているケースには、どんな要因があるか。引き続き注視していきたい。
(文=黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員)