12月末期限の約束手形、先付小切手の存在が時限爆弾のように中小企業経営者に重くのしかかり始めている。新型コロナウイルス感染症の拡大で、空前の不況に陥っている飲食・エンターテイメント業界。もはや文字通り「年を越せるのか」が大きな焦点になりつつある。倒産に至る前に早々に廃業を決断し、戦略的な撤収をはかろうとする企業もある。だが、いざ手詰まりになって廃業をすることになっても、ある程度の“体力”が必要なようだ。飲食業界関係者からは「見切りをつけられるところは6月の段階ですでに見切ったと思う。これからは、にっちもさっちもいかなくなる事業者も増えるのではないか」との声が聞かれる。
朝日新聞デジタルは14日、記事『「倒産・廃業の予備軍多い」 年末ごろから急増の恐れも』を公開。「新型コロナウイルス関連の倒産が11日で474件に達した。様々な給付金や資金繰り支援策で落ち着きつつあるが、支援が切れると再び増えそうだ。コロナ関連以外も含めた全倒産件数は今年、6年ぶりに9千件を突破する恐れがある」(原文ママ、以下同)と報じた。
同記事では、倒産に至らなくても事業をたたむ中小企業が多いことを指摘。以下のように分析する。
「(東京)商工リサーチの7~8月の調査によると、回答した中小企業の約9%は感染拡大が長引けば廃業を検討する可能性があると回答。その時期は半数近くが『1年以内』。倒産以外に休廃業・解散に関する集計もあり、今年は調査開始の00年以降で初めて5万件を超える見通しだ」
Twitter上では、こうした報道に対して不安の声が溢れている。
「弊社も雇用調整助成金の延長で延命した口です。社員4人の零細ですが雇用調整助成金なしでは全滅してましたね」
「いま社員食堂に行ったら食堂おばちゃんが3人リストラされていた コロナの在宅で半分以下しか出社していないのだから仕方がないか 掃除のおじさんが次は我々だと怯えている 食堂も清掃も業者にお願いしてます」
廃業を決意しても、賃料の違約金を払う体力がない
東京都新宿区歌舞伎町のバーの店主は話す。
「売上ベースで今年は前年比70%ダウンです。2006年の開業以来、リーマンショックも耐え抜きましたが、今年は冗談抜きにヤバいです。ボトルを定期的に入れてくれる常連さんが静かに飲む店だったので、そもそも客入りの多い店ではありませんでしたが、6月ごろに東京都が『東京アラート』を発令して以来、『会社で飲みに行くのは禁止になった』とおっしゃるお客様がどんどん増えていきました。
お客様がゼロの開店休業状態が4、5日続くなんてこともざらでした。6月末ぐらいに、年末の約束手形の決済などで不渡り出さないように、体力のあるうちに店をたたむべきではないかと思って、廃業しようとも考えました。そこで問題になったのがテナント賃料の違約金です」
同店が借りるテナントは新宿区歌舞伎町2丁目で延床面積は12坪だ。賃料は月額約20万円、管理費1万7000円。一般的にテナントの中途解約は退去6カ月前に家主への通告が必要だ。賃貸借契約書の内容にもよるのだが、テナントオーナーは店主に「契約書では中途解約の場合、残っている契約期間のうち1年程度の賃料を支払ってもらうことになっている。こっちも苦しいんだ」と言ったという。前出の店主は話す。
「すでに毎月の賃料を払うのですらやっとです。それに、年末の約束手形分の資金を手元に残していなければ不渡り倒産します。とうてい、賃料の違約金のために新たにまとまった金を用意することはできません。自転車操業と批判されても何も弁解はできませんが、もはや年末に不渡りを出さないよう命懸けでやるしかありません。進むも地獄、退くも地獄です」
自民党は14日午後、東京都内のホテルで両院議員総会を開き、総裁選の投開票を実施。菅義偉官房長官が新総裁に選ばれる見通しだ。新たな局面を迎えた政界ではコロナ禍は終わったことのように、年内衆院解散の可能性が取りざたされ始めている。政治と年越しの不安を抱える庶民との意識の乖離は広がるばかりだ。
(文=編集部)