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中国・習近平主席、失脚の可能性…副主席が離反で“習降ろし”勃発、権力闘争が激化

文=相馬勝/ジャーナリスト
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「首相官邸 HP」より

 中国では今月26日から29日までの4日間、1年に1度の中国共産党の重要会議である中央委員会総会「第19期中央委員会第5回総会(5中総会)」が北京で開催される。習近平国家主席(党総書記兼任)はこの総会で、規律引き締めによる体制固めを急ぎ、2年後の党大会で自身の「終身主席」を実現させたいところだが、ここで思わぬ妨害が入ったことが明らかになった。

 それは習氏の盟友で「腹心中の腹心」といわれた王岐山・国家副主席が習氏から離反し、習氏と反目する李克強首相らのグループに転じるなど党内の権力闘争が激化していることだ。さらに、米中対立が激化するなか、西側諸国の中国離れも加速しており、党内では李氏や党長老のグループを中心に、中国の国際的孤立を回避するために、習近平降ろしの動きが強まっており、習氏は苦境に陥るとの見方も急浮上している。

王氏という思わぬ伏兵

 5中総会では2021~25年までの中期経済目標「第14次5カ年計画」と、35年までの長期目標の策定について討議する。新型コロナウイルスや米国との関係悪化の影響で先行きが不透明ななか、発展戦略や経済成長に関する中長期目標をどう打ち出すかが重要なポイントだ。

 とくに、習氏の本来の任期は23年春までなのに、その任期を大幅に超える35年までの長期計画を策定することで、習氏が「終身主席」に向けた長期支配を視野に入れていることがうかがえる。

 習氏は一昨年の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で、憲法の国家主席の任期「2期10年」の条項を削除し、自身の終身主席実現に道を開いており、続投を狙う22年の中国共産党第20回全国代表大会(第20回党大会)に向けて、今回の中央委総会で指導部や軍幹部の人事を通じた体制固めがどれほど進むかのかが最大の焦点だ。

 総会では党幹部の綱紀粛正を進めるための規定を定めた新たな規則も審議。規則によって「習同志を核心とする党中央の権威と統一的な指導を守る」としており、習氏は党員への引き締めを強めることで権力基盤を一層固めて、終身皇帝ならぬ終身主席を目指す。

 そこに、王氏という思わぬ伏兵が現れることを、習氏は予想もしなかっただろう。王氏は習氏の終身主席に反対した。王氏の知人である著名な企業家で、習氏同様、幹部子弟の代表格だった任志強氏(69)は習氏について「衣服をはぎ取られても、皇帝になろうとしている道化者」と揶揄するなど辛らつな習氏批判を展開した。この裏には王氏の存在があったといわれる。

 その任氏は今年3月、重要な規律違反の疑いで逮捕され、4月には党中央規律検査委員会が任氏を起訴。北京市第2中級人民法院は9月の判決公判で、任氏が2003年から17年にかけて、職務上の特権を利用して4974万元以上の公金を横領し、125万元以上の収賄を受け、6120万元を横領したとした。起訴されていた汚職、贈収賄、公金横領、国有企業職員による職権乱用の罪をすべて認め、懲役18年、罰金420万元(約6502万円)の実刑判決を下した。また、任氏の息子や秘書も逮捕されたとの情報もある。

 さらに、党中央は10月2日、王氏の側近幹部として20年以上仕え、最近まで全国の官僚の不正取締機関「中央巡視組」幹部だった董宏氏(66)を重要な規律違反の疑いで捜査していると発表した。董氏は、王氏が1998年広東省副省長に赴任した時に同省政府発展研究センターの副主任を務め、2000年以降、董氏が王氏の部下として国務院経済体制改革弁公室、海南省党委員会、北京市政府などで要職を務めたことはよく知られている。

 さらに、王氏が12年、最高指導部である党中央政治局常務委員に選出され、党中央規律検査委員会書記に起用された後、董氏も15年2月から、党中央巡視組の副組長や組長、党中央弁公庁調査研究室5組の組長などを歴任している。王氏が中国各地を視察した際、董氏は常に同行するなど、両氏とは密接な関係を保っており、2人が官憲の手に落ちたことは王氏と習氏の関係が悪化したことを示している。

 また、王氏は今年に入り9月末まで公式行事に6回しか姿を現しておらず、しかも9月の行事参加は3カ月ぶりだっただけに、すでに両氏の蜜月関係が敵対関係に変わったといえるだろう。

習近平失脚説の根拠

 このようななかで、党内でも習氏の独断専行に反発する勢力が台頭しつつあるようだ。とくに、党の最高指導部が米国と激しく対立していることについて、「習主席が今後も最高指導者として続投すれば、中国は今後100年も西側との冷戦状態を続けなければならず、本当の戦争に突入する可能性も否定できない。戦争の危機を回避するためには、習主席に辞めてもらわなければならないのだ」との声が出ている。

 これは9月12日付の英国のタブロイド紙「デイリー・エクスプレス」が、英国の国防問題専門家のニコラス・ドラモンド氏の発言として報じたものだ。同氏は英国軍元将校では英国政府の国防顧問でもあり、中国通としても知られている。

 同氏の習近平失脚説の根拠は、今年5月のWHOの年次総会で加盟194カ国の代表が新型コロナウイルスの発生源や初動対応に関する独立した検証委員会を設置し、今年11月には中間報告が公開されることだ。ドラモンド氏は、中国では昨年から新型コロナウイルスが発生。習指導部はそれを知っていながら、今年1月22日まで中国での感染拡大を公表しなかった。これが世界中での感染拡大の原因であり、これが知られれば、中国は世界中の国々から責任を追及されることになると予測。そうなれば、中国共産党内で習氏の責任追及が始まる可能性があり、その逆ならば、中国は欧米諸国から責任を追及され、世界は再び冷戦状態に陥り、中国は国際社会から孤立することは必至だという。

 党指導部が習氏の責任を追及しないとの選択肢をとるならば、中国すでに深刻な対立状態に陥っている米国を筆頭に、大半の国々と厳しく対立する道を選ばなければならない。それを覚悟しているように、習氏は昨年から「自力更生」という毛沢東が好んで用いていた言葉をしばしば口にするようになっている。

 最近では今月12日、広東省視察中の習氏がハイテクの優良企業を訪れ、「企業の発展にも、産業の高度化にも、経済の質の高い発展にも独自イノベーションが必要だ。現在我々は過去百年間なかった大きな情勢変動の最中にあり、より高い水準の自力更生の道を歩む必要がある」と指摘した。これ以前にも、18年の大晦日にテレビ演説で発表した19年の元旦のあいさつで、米中の貿易戦争が激化するなか中国民に団結を呼びかけるとともに、自らの努力で困難を克服する「自力更生」を堅持すべきと強調した。

 自力更生とは主に、毛沢東が1945年8月に延安での幹部会議で「自らの力を基本とすることを自力更生と呼ぶ。我々は孤立してはいない。帝国主義に反対する世界のあらゆる国や人民はすべて我々の友人である。しかし我々には、自らの力をもって、国内外の反動勢力を打ち破る力がある」と演説して打ち出したように、欧米列強を敵に回して、自らの力で道を切り開いていくことを示している。

 この文脈から見ると、習氏は米国など欧米諸国と妥協せずに、徹底的に戦い続けていくと強い決意を「自力更生」という言葉に込めているといってもよいだろう。

 このようななかで、党内の反習近平グループがどう出るのか。あと2年後に迫った第20回党大会を前にして、党内の権力闘争が激化するのは必至といえよう。

(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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