菅義偉首相のブレーンであり、政府の成長戦略会議の有識者メンバーでもある人材派遣大手パソナグループ会長の竹中平蔵氏について「どんな仕事をしているか承知していない」という驚きの首相答弁があった。いったい、なぜ「首相が承知していないのか」と永田町でざわめきが広がっている。
問題になっているのは5日の参議院予算員会、立憲民主党の森ゆうこ氏(新潟県選挙区)との質疑だ。森氏は非正規労働者が労働者全体の4割近くに達している現状を指摘。安倍晋三政権以来の規制改革で、正規雇用者数が減少していることについて質した。
森氏は、「ある菅首相のブレーンは次のように話している」として、テレビ朝日系の討論番組『朝まで生テレビ !』で語られた内容をフリップボードにして、掲げた。フリップボードには「正規雇用といわれるものはほとんどクビを切れないんですよ。クビを切れない社員なんて雇えないんですよふつう。それで、非正規というのをだんだん増やしていかざるを得なかった」と書かれていて、森氏はそれを読みあげた上で、「こういう人がこれからの経済と規制改革のアドバイザーですか。総理、こういう話をしている人、どなたかわかるでしょう」と総理に質問した。
菅首相「どういう仕事をしているか私は承知していない」
西村康稔内閣府特命担当大臣(経済財政政策)が説明した後、菅首相は「えーと、どなたですか?教えてください」と答弁。
森氏が「竹中平蔵さんです。竹中平蔵さんは今、どういう立場ですか? 仕事は何と何をしてらっしゃるんですか?」と再質問したところ、菅首相は次のように答えた。
「あのー、竹中さんが具体的にどういう仕事をしているか私は承知していない。大学教授とか、そうしたものをやって、経済評論家とか、そういうことではないでしょうか。いずれにせよ、竹中さんに限らず有識者の方にさまざまな成長戦略とか規制改革の会議に入っていただいていますけれど、いろんな意見を聞く中で、私のところで判断をして経済を良くするために取り組んでいるということであります」
この答弁に議場はざわつき、森氏は苦笑しながら「総理になられてから初めて会食された民間人は竹中平蔵さんと承知しているのですが、総理のアドバイザーというかブレーンとして、いろいろな役をこれまでもやってこられましたし、今回もあらためてお願いしたわけですよね」と詰め寄った。
菅首相は「あのー、菅内閣の参与とか補佐官には入っておりません。政府の成長戦略会議とか、そういう中でメンバーになっていただいています。そういう中でそれぞれの有識者の皆さんから意見を伺って、自由な発想の中から活発なご議論を伺う中で、私自身が政策判断をさせていただいているということでございます」
その間、坂本哲志内閣府特命担当大臣(少子化対策、地方創生)らが政府の有識者会議に竹中氏が所属している理由と意義を説明した。
しかし、森氏は「規制改革関連の未来投資会議など、どこをとっても金太郎あめのように竹中氏が出てくる。竹中氏はパソナのどんな役をしているのか」とさらに詰め寄り、坂本大臣が「パソナグループの会長でございます」と最終的に認めた。
立憲関係者「利益相反だと突っ込まれると思ったのだろう」
一連の質疑に関し、立憲民主党衆議院議員は次のよう話す。
「雇用関係の規制改革を進めると、パソナなどの人材派遣会社が儲かる。これまでの日本の雇用環境の推移を見れば明らかです。明確な利益相反関係にある人物を政府の政策決定に関与する有識者会議の委員にするのは、問題だということです。首相もそれがわかっていたから、誰でも知っているパソナ会長の肩書きを自分の口で言わなかったんでしょう」
一方で、与党公明党関係者は次のようにいぶかしむ。
「このところ、菅首相は官房長官時代のような答弁のキレがない。今回の竹中氏の件もなぜ明確に回答しなかったのか、よくわかりません。菅首相と竹中氏はこれまで、経営学のセミナーで対談をするなど非常に懇意にしています。それを知らない人間はいません。変に口をつぐめば、野党に突っ込まれます。正々堂々と答えればいいだけだったのではないでしょうか。案の定、野党が盛り上がり始めています」
首相の謎答弁は、竹中氏の存在感は現政権成立後、日に日に増していることの証左なのかもしれない。