「菅義偉内閣官房長官」1万3000円、「環境大臣小泉進次郎」1万2000円……。菅首相や小泉環境相の名刺がインターネットショッピングサイトのメルカリなどで高額販売されている。
当サイトが確認したところ、菅首相の名刺は「官房長官時代」のものが多く、3000~1万4000円くらいで販売されていた。石破茂氏は8000円~1万円、鳩山由紀夫氏は2000円~1万2000円といったぐあいだ。
ちなみに自身の写真が大きくプリントされた名刺とオフィシャルな名刺が揃った「菅義偉 内閣官房長官 名刺セット」は1万3000円で販売され、売り切れていた。展示用のアクリルスタンドに名刺をおさめたものもあった。
また衆議院議員の肩書きで売りにだされていた麻生太郎財務相は3000円で買い手がついていた。人気の有無が価格にも表れているのだろう。いずれにしても、当人や事務所が売りに出しているとは考えにくい。名刺交換した誰かがネット上で販売しているのだろうか。
「名刺をたくさん配る議員は良い議員」
当選5回の自民党中堅衆議院議員に画像を見てもらったところ、次のように語った。
「間違いなく総理と小泉君の物です。同じものを私も持っている。まったく誰がこんな不届きなことを……。ただ、名刺配りは政治家にとって有権者獲得の最大の手段でもあります。たくさん配っている議員はそれだけ人に会っている良い議員です。選挙期間中ともなれば、自分の写真を大きく掲載した名刺を数千枚は配ります。それだけ大量に配れば、こういうこともあるんじゃないですか。大臣に会ったことが、誰かにとって少しでもメリットになるのならいいじゃないですか。
公職選挙法では、挨拶慣例としてビジネス名刺の配布は認められているものの、明確に『選挙運動用』であることが明示された名刺を大量に配布することは違法性を帯びるとされています。昔は選挙事務所の連絡先が書かれた選挙用の名刺と、議員活動時に配る名刺を分けている先生も多かったけれど、最近は何かと厳しいですからね。誤解を招かないよう、常日頃からオフィシャルなビジネス名刺一本に絞って配る先生も多いんじゃないかな」
一般的に総理大臣や閣僚の名刺は、表に肩書きと自身の名前、裏面に自身の所属する官庁や事務所の住所と電話番号が記載されているのみで、個人のメールアドレスが記載されている例は極めて稀だ。そのため名刺をネットに横流ししても、個人情報の漏洩につながる可能性は低いだろう。
反社に流れれば悪用される危険性も
一方、政治家以外では株式会社角川春樹事務所の代表取締役社長の角川春樹氏の名刺、松竹株式会社専務取締役の肩書きで株式会社チームオクヤマ代表取締役社長の奥山和由氏の名刺、宝塚歌劇団理事長の肩書きで同歌劇団顧問の植田紳爾氏の名刺が各500円で売れていた。
インターネット上で行われているこうした名刺の売買に問題はないのだろうか。警視庁の捜査関係者は次のように語る。
「コレクターのアイテムとして愛好家間でやり取りするのは問題ありません。
ただ、そうした名刺が悪用される危険性はあると思います。例えば、菅首相や小泉環境相のように顔が広く知れている著名人であれば、名刺の当人を騙ったり、装ったりするのはむりでしょう。しかし、首相や閣僚の名刺をチラつかせて、あたかも政府関連の事業を行っているかのように見せて出資金や寄付を募る詐欺行為を行う案件もあります。怪しげな事業実態や、反社会的な組織の人間が、首相や閣僚との関係をほのめかす名刺を事務所などに飾り、社会的な信用を偽装する手口もあります。
顔が知られていなくても警察官の名刺のように、信用価値が高いケースもあります。取材にくる新聞記者などに『もし、やったら生涯出入り禁止だ』と口を酸っぱくして言っていますが、捜査員の名刺をキャバクラの女性従業員に渡して、警察官を騙って口説こうとする不届きな人間もいます。そんな風に流出してしまった名刺は詐欺グループなどに行きつき、最終的には犯罪の小道具になる危険性をはらんでいます。
名刺はその人間の顔と信用そのものです。配る方も、もらう方もそれなりに配慮していただきたいと思います」
名刺はアイドルやアニメのファングッズとは違う。しっかり管理したほうがよさそうだ。
(文=編集部)