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経営者を狙う「M資金詐欺」がコロナ禍で復活?自尊心をくすぐる巧妙な手口と詐欺師の正体

構成=長井雄一朗/ライター
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「gettyimages」より

 今年6月、旧日本軍の秘密資金「M資金」をうたって巨額の資金提供を持ちかけ、会社役員から現金1億3000万円を騙し取ったとして、詐欺の疑いで男3人が神奈川県警に逮捕された。この事件では、総額31億5000万円を詐取した疑いがあるという。

 終戦後に闇世界を跋扈したM資金をめぐる詐欺が、令和の時代にも生きていたのだろうか。「コロナ禍での不況により、経営者を狙うM資金詐欺は復活の兆しが見える」と指摘する、東京商工リサーチ情報本部情報部の松永伸也部長に話を聞いた。

M資金はGHQが接収した秘密資金?

――そもそも、M資金とはいったい何なのでしょうか。

松永伸也氏(以下、松永) 諸説ありますが、一般的には、戦後に連合国軍総司令部(GHQ)が占領下の日本から財宝や資産を接収し、その一部を極秘に運用している秘密資金のことを言います。「M」はGHQ経済科学局長のウィリアム・マーカット少将に由来する、などの説があります。

 また、「一般には知られていないが、国家的価値のある事業に携わる大企業の経営者や富裕層など、選ばれた人にのみ特別に斡旋される数千億円から数兆円にも及ぶ巨額融資の原資」などとうたわれますが、実際は詐欺の古典的な手口のひとつです。

 政府の代理人を名乗る人物が経営者のもとを訪れ、数千億円を融資する代わりに仲介手数料を詐取し、書類に個人情報の記入や署名、捺印を迫り、のちに金銭を脅し取るというものです。

――これまで、どんな人が騙されたのでしょうか。

松永 被害者の多くは、都市部の大企業の経営者や役員です。1970年代に航空会社の社長が3000億円の融資話に乗って念書を書いたことが公になり、退任した事件が有名ですが、他にも旅行会社や薬品卸会社、建設会社の社長や役員、芸能人が被害を受けたと言われています。

 また、大手企業の社長なので騙されたことを公にしづらく、被害届を出さないケースもあります。そのため、被害が表面化しづらいのもM資金詐欺の特徴です。実は、上場企業が多い大手町では月に数件、M資金詐欺について警察に相談が寄せられているそうです。

――なぜ、海千山千の企業経営者が簡単に騙されてしまうのでしょうか。

松永 詐欺師が接触する手口は2つあります。ひとつは、アポなしで直接訪問するケース。「米国務省のA(実在する人物)と日本銀行総裁から貴社の社長に会うように指示された。他の者には聞かせられないので直接話したい」などと語り、会社を訪問してくるのです。ここで無視すればいいのですが、「政府や政治家の代理人」などと言われることで、簡単に断ることができなくなってしまうようです。

 2つ目は、事前にレターパックで書類を送りつけるケースです。そこにM資金の説明や「長期保護管理権委譲渡契約方式基金」の説明、著名な企業家が関わっていることを匂わす文章などが記されています。また、官庁幹部職員の職歴などもつけて、信用性を高めていることもあります。

詐欺師が「名刺を2枚」要求する理由

――その後の展開を教えてください。

松永 面談は1対1で、「秘密資金のため他言無用」と念押しされます。そして、財務省や金融庁などと書かれた5000億円の「還付金残高確認証」や預金通帳のコピーを見せられます。「あなたは特別に選ばれた人物」「融資することが国家のためになる」などと、経営者の自尊心をくすぐるわけです。さらに、「返済義務がなく、親子3代まで免税・免責・免租され、国から証明書が発行される」などと言葉巧みに誘います。

 ここで色気を見せてしまうような野心のある人ほど、つけ込まれやすいと言えるでしょう。そして、誰にも相談できないので、一種のマインドコントロール状態に陥ってしまうのです。

――そして、あっさり騙されてしまうわけですか。

松永 「契約金額は、資金管理者である金融庁のB氏(実在の人物)が面談の上で最終決定する」などと言われれば、被害者は疑う余地をなくしてしまいます。また、名刺を2枚用意させ、1枚は裏に氏名と捺印(銀行印)、生年月日、携帯電話番号、そして「よろしくお願いします」などと一筆書かせます。そこで、仲介手数料や諸経費の名目で、契約金額の数パーセントを要求するのです。

 5000億円の融資であれば、1%でも50億円です。しかし、その資金を手にすると連絡が途絶え、詐欺師は姿を消します。当然、融資など実行されるはずもありません。

 また、手数料を詐取されなくても、裏書きした名刺や、個人情報を記入、捺印した書類をもとに、悪用されたり買い戻すように脅されたりすることもあります。

――「M」以外の秘密資金詐欺もあるのでしょうか。

松永 現代では「M資金=詐欺」という認識も広がっているため、あえて「これはM資金でない」として、別の秘密資金の存在を匂わせて騙すケースが増えています。「天皇家の資金を管理している」「産業育成資金を提供する」「フリーメイソンの資金から拠出」などと、言葉巧みにすり寄ってくるのです。

 最近であれば、「東京五輪資金」「新型コロナの給付金」などという名目で詐欺に利用されており、「上場企業向けの給付金があり、そのうち2兆円を確保した」とうたう詐欺もあります。コロナ不況で手元資金が枯渇する企業が増えており、そうした経営者心理につけ込む形で、秘密資金詐欺が増えている可能性はあります。

M資金の詐欺師は高齢者が多い?

――狙われるのは、どんなタイプや企業なのでしょうか。

松永 多額の元手が必要な製造業、店舗を増やしたい小売業、流通業、建設業などは数千億円単位の資金が動くため、狙われやすい業種と言えます。また、オーナー企業の会長や社長クラスは孤独で相談相手がいないことが多く、特に地方のオーナー企業の幹部は権限が大きいので、狙われる可能性があります。

――M資金詐欺を働く加害者はどんな人物なのでしょうか。

松永 高齢者が多いのが特徴です。劇場型の犯罪なので、巧みな話術と外見からは品があり立ち居振る舞いから詐欺師とは見られないとなると、自ずと高齢者が中心となります。また、それらしい書類やパンフレットをつくらなければならず、成功の確率が低いわりに意外と手間がかかるため、若い人が避けるからでは。

 以前、話を聞いた加害者は経営者でした。「なんでこんなことをするんですか」と聞くと、「趣味でやっているだけだ」と答え、「原資はあるのですか」と聞くと「ある」と答えました。「その話が成立してお金を渡さなければ、詐欺になるのでは」と聞くと、「そうなった場合は、詐欺になるかもしれないね」と言いました。要するに、本人に罪の意識はあまりないのです。

 M資金の詐欺師は、お豆腐屋さんにたとえられます。お豆腐は「一丁、二丁」で数えますが、M資金も架空の「1兆、2兆」の話を転がすからです。いずれにしろ、M資金詐欺の最大の対策は無視して、決して会わないことです。

(構成=長井雄一朗/ライター)

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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